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なぜ今「農家」こそが最強の職業なのか?

『ビジネスパーソンの新・兼業農家論』の「序章」 公開

8月28日(金)に発売されました新刊『ビジネスパーソンの新・兼業農家論』の「序章 今「農家」こそ最高の職業だ!」の一部を公開します。

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農作物のままだと50万→加工すれば3000万円に

農家なら食いっぱぐれない

 農家の最大の特徴って、ずばり「食いっぱぐれない!」ってこと。よく僕たちの親世代が「お前は食っていけてるのか?」なんて言うが、それは言い換えるなら「ちゃんと稼げているのか? 商売は成り立っているのか?」ってことだと思う。

 しかし、農家はそもそも人間が生き延びるのに必要な「食料の源」を作っているのだから、食っていけないはずがない。むしろ「食うには困らない職業」なのである。

 さらに、「食料の源」を作って、それをしっかり「商い」に転換することができれば、金銭的にも「食っていける」状態になる。つまり、農家は物理的にも金銭的にも「食いっぱぐれない!」という最強の職業であると言える。

 しかし、この「しっかり『商い』に転換する」とはいったいどういうことか。僕がやっている農業を一例として挙げてみる。

 僕は広島県竹原市の小さな米農家の次男坊として生まれ育ち、大学から東京に出た。竹原市は人口2・5万人の小さな街。瀬戸内海に面した温暖な気候で、その昔は製塩が盛んな地として栄え、今では古い町並みと日本酒が有名だが、少子高齢化で人口はご多分に漏れず減少する一方である。

 この竹原市の山奥に「田万里(たまり)」という限界集落がある。田万里町は、稲作が中心の町。広島空港から車で10分、新幹線の東広島駅から車で10分、竹原の市街地から車で15分という好立地にも関わらず、過疎が急速に進んでいる。世帯総数176世帯、総人口422人。

 そのうち20〜30代の若者はたったの24人。南北を山に囲まれ細長く、南から北の山裾までの距離が200〜300mしかない盆地が約5km続く、まるで「うなぎの寝床」のような地形。町の真ん中に交通量の多い国道2号線が通っているが、誰も立ち寄らず通り過ぎていくだけの「名もなき農村」になってしまっている。

 この衰退した農村で、去年から僕は仲間たちと一緒に、祖父母が残した築150年の古民家に暮らしながら、何年もほったらかしだった耕作放棄地2・4ヘクタール(東京ドームの約半分)を、作物が植えられる農地として再生。「菜種・米・大豆」の生産をスタートさせ、それぞれ「なたね油・米粉揚げパン・豆乳チーズ」へと加工し商品化。今年から全国へ発売する。

生産したモノの価値を最大化する方法とは?

【田万里】チーズ

 せっかく作った農作物をなぜ加工するのかというと、これは僕が全国の変態的農家たちから教わった「生産したモノの価値を最大化するには、加工商品を作るのがいい」という教訓からだった。

 例えば大豆を2・4ヘクタールの土地でフルに収穫したとする。その量およそ3トン。この大豆を豆のまま卸価格で販売すると51万円(※1)にしかならないものが、全てを豆乳チーズに加工して販売したとすると3,024万円(※2)になる。およそ60倍の収益だ

 日本の農業を眺めてみると、約130万戸の農家のうち6割が年商100万円以下。一方、年商1000万以上の農家は全体のわずか8%しかいない。

 少子高齢化はもちろん食文化の変化や農作物自由化など社会的背景もあるかもだけど、これでは「農業」が次世代たちの憧れる職業にはならないのも納得できる。

 がしかし、日本の農業がこんな状態になっている一番の原因は「変態的な農家が目立ってないから」なんだと思う(笑)。

 だから僕は全国にいる「カッコよく」て「楽しく」て「健康的」で「儲かってる」変態農家を世の中にいっぱい紹介しながら、自らも変態農家になれるよう、都市と農村を行き来しながら日々オモシロいことに挑戦して生きていきたいと思う。

(※1)・・・令和2年の公益財団法人日本特産農産物協会の大豆買取価格の全国平均は60kgあたりおよそ10,000円で計算。
(※2)・・・豆乳チーズ1個200g 希望小売価格1,680円で卸売なども加味し、完売した場合の金額。

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著者 井本喜久(いもと・よしひさ)
ブランディングプロデューサー/一般社団法人The CAMPus代表理事/株式会社The CAMPus BASE代表取締役
広島の限界集落にある米農家出身。東京農大を卒業するも広告業界へ。26歳で起業。コミュニケーションデザイン会社COZ(株)を創業。2012年 飲食事業を始めるも、数年後、妻がガンになったことをキッカケに健康的な食に対する探究心が芽生える。2016年 新宿駅屋上で都市と地域を繋ぐマルシェを開催し延べ10万人を動員。2017年 「世界を農でオモシロくする」をテーマにインターネット農学校The CAMPusを開校。全国約70名の成功農家の暮らしと商いの知恵をワンコインの有料ウェブマガジンとして約2000名の生徒に向けて配信中。2020年 小規模農家の育成に特化した「コンパクト農ライフスクール」を開始。農林水産省認定の山村活性化支援事業もプロデュース中。

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