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【 #詩 】断章 本を読む、詩を編む
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閉じた本はとても愛おしい
艶やかなカバーに包まれて
また触れられるのを待っている
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まだ読み手はやってこない
しおりを挟んだその先には
知らない物語が待っている
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ページをめくるとあの日の記憶が
香りとなって立ち昇る
まるで思い出の押し花だ
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古本はよいものだ
手放した誰かに寄り添った
優しいいのちを宿している
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ギザギザぶちの本たちも
きっと生まれたときよりは
まるくなっていることだろう
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疲れたときにはひとつだけ
たったひとつだけの詩篇を読もう
それはきっとあなたの寄る辺
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読書に向くのは雨の日だ
静寂も喧騒も 雨音はすべてを
掻き消してくれるから
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ちょっぴり黴臭くても
気にならないのはなぜだろう
そんなわたしも本の黴
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積ん読は生命のストックだ
これを読み切るまでは
絶対に生きていないといけない
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手放した本もたくさんある
新たなご主人の手のなかで
物語を奏でているといいな
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五冊くらいをゆっくり併読しよう
言の葉は新たな調べを紡ぎだし
クインテットを披露してくれるだろう
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百年以上前の本を持っている
ドイツ語で記された美しい本
いまのわたしにはまだ読めない
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わたしのこころのなかには
ミラボー橋がかかっている
そのしたを流るるはパリの血脈
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新品の本を読むのはとても大変だ
初めて会った青二才の語り部を
こちらが導いてやらないといけない
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美しいことばは色褪せない
百年前の詩人が込めた熱を
真新しい詩集も帯びている
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大きい本を読むのは登山に似ている
読了の達成感を得た日には
近場の銭湯にでも行きたくなる
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ことばは標になる
武器にもなる
扱いには気をつけよ
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いろいろ挟まっている本を
古書店で見つけてしまうと
ついつい連れて帰りたくなる
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詩集ではない書籍を読んでいても
リリシズムを感じることがある
世界は抒情であふれている
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あなたに寄る辺がないのなら
風の調べに詩をのせて
それはひとりの道標
Tips:100均のブックカバーに100均のヘアゴムをつけるだけで十二分の保護になります。
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