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まなかい ローカル72候マラソン

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まなかい… 行きかいの風景を24節気72候を手すりに 放してしるべとします。                                        万葉集        …
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#花綵列島

芒種 第27候・梅子黄(うめのみきばむ)

芒種 第27候・梅子黄(うめのみきばむ)

「ながめる」とは 永い雨、長雨(ながめ)から来ているという。

間断なく降り続く雨を眺めていると そこはかないぼんやりしたときが過ぎていく。焦点はどこか遠くなっていく。

夜半過ぎても雨が降り続いていたりすると もぞもぞ起き出して 手近な異界である書物を読みたくなる 五月雨に濡れそぼる五月闇。雨は日常を異界にしてくれるから、雨音を聴きながら書物という森を踏み迷うにはうってつけだ。

「梅子黄 うめ

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小満;第24候・麦秋至(むぎのときいたる)

小満;第24候・麦秋至(むぎのときいたる)

麦は自給率も低いし、稲に比べると馴染みが薄い。金色の麦畑を見たことも数えるほどしかない。でも見かけた時はやっぱり美しくて記憶に残っている。

パンは好きだし、ケーキも好き。コーヒーとケーキはやっぱり合う。パスタもクラフトビールも好きだ。ユーラシアの行事を繙いていると稲と麦という東西の主食の違いが目に見えるものの差を生んでいるのがわかるから興味深い。

中国から伝わった七夕(しちせき)の行事ではかつ

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小満;第22候・蚕起食桑(かいこおきてくわをはむ)

小満;第22候・蚕起食桑(かいこおきてくわをはむ)

生まれ育った地域はかつて養蚕がとても盛んな土地柄で、小学生の頃は隣もお向かいも裏の家も田畑と養蚕を営んでいた。

隠し部屋のようになっていて使うときだけ降ろす階段が、土間続きに設えられていて、それを不思議な感覚で登った記憶がある。登ると蚕室は囲炉裏や寝室のある一階の上ほぼ全てという広さで、そんな板張りのガランとした「お蚕さん」の蚕室に何度か入れてもらったことがあるけど、何百匹といる蚕が草を食む音に

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立夏;第21候・竹笋生(たけのこしょうず)

立夏;第21候・竹笋生(たけのこしょうず)

筍の旬は10日ほどだという。ここから「旬」という概念も生まれているそうだ。

1日で1メートル伸びるなんて、

国語の「たけ」は猛々しいとか、高い、逞しいなどとも通じている。

竹の子のあのギュッと詰まった円すい形

竹の皮に包まれ 土を突き抜け

圧縮され凝縮されたエネルギーをいただく

一日1メートル伸びる その節の間の余白

水の通り道 

空への意志

かぐや姫さえも孕んで

目覚めたばか

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穀雨 第17候・霜止出苗(しもやんでなえいづる)

穀雨 第17候・霜止出苗(しもやんでなえいづる)

4月25日。個人邸の造園引渡しがあった。

門柱と表札、インターフォンを取り付けて、足元の灌木地被類などを納めた。

霜やんで苗出づる。

緑は穀雨の雨を受けて広がり大いに繁茂するタイミング。

お施主さんご夫婦と庭師二人とで眺める。お家ができて引越しを挟んでずっと現場の進捗をご家族皆さんが見てくれていた。コロナによる自粛のタイミングだったから。友人である施主が一番よく見ていてくれたと思う。都度対

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穀雨 第16候・葭始生(あしはじめてしょうず)

穀雨 第16候・葭始生(あしはじめてしょうず)

「豊葦原の瑞穂の国」

「美し葦牙」と謳われた風土を持つ列島。人が住み始めた頃は湿地がとても多かったのだろう。

葦 芦 蘆 葭、、、たくさんの漢字を当てられ、「悪し」に通じるというのを忌み嫌われてヨシ 蘆 葦、、、となる。ややこしいが吉原は葦原だったのだ。

茅(かや)とも呼ばれるから 地方によって芒やオギなど陸生のものも使われるが、一般に茅葺き屋根も多くは葦が使われた。

武蔵野といえば雑木林

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清明 第15候・虹始見(にじはじめてあらわる)木を立て 気を立てる

清明 第15候・虹始見(にじはじめてあらわる)木を立て 気を立てる





春の土用を前に 個人邸のお庭は大体 引き渡しまでこれた

木を立てるのは 気を立てること 

彼らがおさまるところにおさまると 気立てのいい庭になる 

沓脱ぎ石も据えた 飛び石も打った 園路も整えた 

石は静かに 放散しがちな気を 鎮めてくれる

新しい時が動き始めるのを確認して お客さんへお渡しする

デザインの仕事はいちど手を離れる



夜間作業となるホテルの仕事はまだ途中だ

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清明 第14候 鴻雁北(こうがんきたへかえる)

清明 第14候 鴻雁北(こうがんきたへかえる)



若い時見た いまの自分のどこかを作っている 忘れられない風景というのがあって そんな場所はいつか誰かに見せたいものでもある 
 候は「鴻雁北(こうがんきたへかえる)」 南から燕が渡ってきたら、雁が北へ帰っていく 
 人にも 帰りたい風景というのがあるのかもしれない

作庭の現場が丸一日空いた時に いまなら あの頃見たあの風景が観れるかもしれないと 飛び出していた 
 20年も前だから多少は変わ

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清明 第13候・玄鳥至(つばめきたる)

清明 第13候・玄鳥至(つばめきたる)

万物発して清浄明潔なれば、此芽は何の草としれる也(暦便覧)

ここのところの作庭の現場が東京郊外なので よく車を走らせる

青山通りや 首都高 東名高速沿い 開発を逃れて残った林や公園で木々のみどりが一斉に吹き上がり ふわふわと風に和毛を揺らしている 桃色と緑が混ざった葉桜も 黄梅や連翹の黄色も ツルニチニチソウやハナニラの紫も 早緑の地に悦び溢れる 今年は躑躅や藤やアイリスの仲間も早い もう初夏

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