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声を出しながら手話をしてはいけないの?

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《コーダ子育て中の親向け》コーダ子育てサロン(対面・オンライン)にご参加いただいた方達の、子育てに関するお悩みやご相談いただいた内容をまとめました。※コーダ=聞こえない親を持つ聞こえる子どものこと
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Q.声を出しながら手話をしてはいけないの?

A.たくさんのコーダの子どもたちをみてきましたが、聞こえない親とのコミュニケーション方法としてはデメリットがあることが分かりましたので、あまりお勧めしません。


・デメリットとは?

裸耳では、理解できない口話はもちろんデメリットがたくさんありますが、一番のデメリットは、音声日本語(以下、声とする )と手話で聞こえない親とコミュニケーションを取ってきたコーダは、手話をあまり使わない、または、手話が使えないことが多いということです。

なぜ、手話をあまり使わない、使えないことが多いのか。

聞こえない親は、声と手話を併用することで、
“親子間のコミュニケーションが容易になるのでは?”
“コーダが声と手話の両方を獲得できるのでは?”
と考えてしまうようです。

しかし、コーダは「耳の子」でもあり 、聞こえるので、声と手話の併用だとどうしても「声」の方に頼ってしまいます。

そのため、親が頑張って手話を見せようとしても結局、声の方が勝ってしまい、手話がなかなか身につきません。

聞こえない人の中には
相手が聞こえない人であれば、声を出さず手話をする。
相手が聞こえる人になると、声だけで話すか、声を出しながら手話をする。
というコードスイッチが起こる人がいます。

その人に子どもが生まれ、親になり、その子どもが聞こえるとわかると、聞こえる人に合わせた口話や声を出しながらの手話で育ててしまうようです。

コーダは親の顔を見なくても声だけで言葉を理解できますし、仮に親の方を向いていたとしても 、動いてる手が見えていなかったりします。

これでは、親がコーダと向き合っているつもりでも、肝心な手話が身につきません。

聞こえない親としては、これまで声を出しながらたくさん手話をしてきたのだから、ある程度手話が読み取れているのだろうと思い、声なしでの手話でコーダに話してみたら、「え?なに?」と聞き返され、案外通じなかった、読み取れていなかったという話を何度も聞いています。

こうなってしまうと、これから先も「声」を出さないといけない状態が続き、いつまでたっても手話が身につかないという状態に陥ってしまいます。

・手話が身についていないとどうなる?

親はコーダの口を読み取る生活をするようになり 、コーダは数少ない手話単語しか覚えていないため、言いたいことがうまく伝えられず、難しい内容を話すときは分かりやすく言い換えるなど伝え方を工夫しなければならなくなります。

このことだけでなく、パートナーが聴者の場合でも同じような事象が起こります。

最近、聴者と結婚するろう者・難聴者が増えており、生まれてくるコーダとのコミュニケーションのとり方に苦労しているという話をよく聞くようになりました。(コミュニケーション格差)

コーダもいずれは 反抗期に入り、親子の関係性 も複雑になってきます。手話ができない、使わないコーダと 『深い会話』ができるでしょうか。

反抗期に突入すると、聞こえる聞こえないに関係なく、親と顔を合わせず、そっぽを向いたり、親の声かけに相槌を打つだけで会話が続かない子もいます。それがコーダだとしたら・・・

◆ 手話ができるコーダの反抗期の場合

コーダは
“今はそういう気分じゃないから、話しかけないで!”
顔を合わせなくても手は手話をしています。

親はその手話を見て、“そうなのね。後にしよう。”と思えます。 

◆ 手話ができない、使わないコーダの反抗期の場合

コーダは
“今はそういう気分じゃないから、話しかけないで!”
顔を見せずに声を発します。

親はコーダの顔が見えないので、何と言っているのかわからないため聞き直す(問い詰める)と、コーダがますます不機嫌になってしまうことがあります。 

この違いを見て、どう思いましたか。

反抗期だけでなく、思春期でも同じようなことが起こります。

悩んでいることや困っていることを親に話したい。
でも、自分は手話があまりできないから、どうやって伝えればいいのかわからない。

親にわかるように簡単な言葉を選んで伝えたとしても、うまく伝えられなかったという思いが強くなり、その気持ちのやり場がなく悩み続けるコーダもいます。

成人したコーダの想い

「やっぱり手話を覚えたかった!」
「親とは口話で話していたけど、私の言っていることがほぼ伝わっていない。」
「親同士は手話で会話するのに、どうしてコーダの私には声で話すんだろう。」

・“家庭内”でのコミュニケーション格差

聞こえない親も、職場や聴者との交流の場などで意気投合したり、深い会話ができなかったという経験をされている方が多いと思います。

幼少期から聴覚活用で育てられていたとしても、ご自身の親と進路や悩み相談などの「深い会話」はできなかったのではないでしょうか。

この他にも、みなさん経験があると思いますが、食卓での家族団欒の時はどうでしたか?

目の前に飛び交う会話の内容が分からない、ようやく分かったとしてもどんどん変わっていく話題についていけず、黙々と食事をしたという人が多かったと思います。

このような状態を ディナーテーブル症候群 (詳細はリンク先へ)と呼びます。

手話を使わない聞こえる家庭でのろう難聴者が経験する「ディナーテーブル症候群」 

みんなが笑っているときに、「何の話?」と聞いても「たいしたことない」、「あとでね。」と言われてしまうこともあります。

“みんなが手話を使えていたら…、寂しい思いをせずに沢山たくさんお話できたのに…。”という気持ちになりますよね。この時の大変さや辛さが理解できると思います。

聞こえない親自身の体験をコーダに置き換えてみてください

コーダも同じ思いをしているということになります。

聞こえないお父さんとお母さんの会話が手話だった場合

・内容はなんとなく理解できていても、自分は手話が使えない、分からないからその間に入れない…。
・口話で話さないといけないが、聞こえない親にわざわざ食事を止めてもらわなければならない…。
・手話を自由自在に使えたら…。

とコーダは思っているはずです。

パートナーが聴者の場合に起こりうること

手話があまり身についていないコーダほど、聞こえる親の方に行ってしまい、聞こえない親が取り残されてしまう可能性が出てきます。
食事のときだけでなく、お出かけの時もそのような疎外感を経験することは少なくありません。

コーダは、楽しくなったり疲れたりすると、通じやすいコミュニケーション方法を選びがちです。

特に手話があまり身についていないコーダの場合、聞こえる親と話したくなるのはごく自然なことです。

その輪に入れない聞こえない親の気持ちを理解できるようになるのは、コーダが成長してからです。ほとんどのコーダが、大人になってからようやくその気持ちに気づきます。

このように、“家庭内”でのコミュニケーション格差があるということをどのように解決していくかを、聞こえるパートナーと早めに話し合うことをお勧めしています。

聞こえない親は、ディナーテーブル症候群 の経験がありますが、聞こえない自分が結婚して家庭を持ったことで、また似たような状況を再現してしまうとは思わなかったという人も多いです。

テーマからすこし逸れてしまいましたが、

先述した通り、親子でのコミュニケーションはすべてが繋がっているので、様々なコミュニケーション手段があるとはいっても、その手段によっては“家庭内”でのコミュニケーション格差が起きてしまうことを理解しておく必要があります。

・もともと日本手話には声がつきません。

聞こえない同士が声なしで手話をするのと同じような環境づくりをすることで、自然に日本手話が身につきます。

手話サークルなどで手話を学び始めたコーダの何人かにお会いする機会がありました。 なぜ、大人になってから手話を学ぼうと思ったのかをお伺いしたところ、

「聞こえない親ともっと話したかったから。」

という切ない理由が多かったです。

親と 『深い』コミュニケーションをとりたくて、手話を学ぼうとするコーダがどれだけいるかは分かりませんが、
手話があまりできず、親と『深い』コミュニケーションがとれていないコーダほど、生まれ育った実家に帰りたがらないという現実があります。

ディナーテーブル症候群 を経験した聞こえない親も聴覚活用で厳しく育てた 聴家族のいる実家には帰りたがりませんが、それと同じですね。

これらの問題をなくすためには、

”声なし”での手話で心おきなく自由におしゃべりできる環境を作ることが大切です。


聞こえるからといって声を発するのではなく、コーダにも”声なし”の手話で話しかけてあげてください。 

最後になりますが、「声つき手話」から「声なし手話」への切り替え方法の記事を紹介していますのでご参考にしてください。
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