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臨床心理士への随録

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大学院入学から臨床心理士になるまで/2018.3-2020.12/心理学/臨床心理学/臨床心理/臨床心理士/公認心理師/産業カウンセラー/キャリアコンサルタント/心理カウンセラー…
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#推薦図書

こうこつのひと〜認知症と記憶忘却|臨床心理士への随録 心理学

こうこつのひと〜認知症と記憶忘却|臨床心理士への随録 心理学

「恍惚の人」は、1972年に出版された有吉佐和子による長編小説。「こうこつのひと」で認知症が浮かんだ人は、私より年配か、福祉関係の人か、かなりの読書家さんだと思う。「恍惚」とは、①物事に心を奪われてうっとりするさま ②意識がはっきりしないさま ③老人の、病的に頭がぼんやりしているさま、である。

恍惚であれば認知症かというと、そうではない。認知症には「脳の器質的変化によって、いったん発達した知的機

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人目は力になるか負担か|臨床心理士への随録 心理学

人目は力になるか負担か|臨床心理士への随録 心理学

私、サッカーが趣味でして。小中高は部活で大学はサークル、社会人では26歳まで区の2部リーグに参加し、子育て期間はお休みして、30半ばから地域のシニアサッカーで復帰しました。一度でいいから大観衆のスタジアムでやってみたかったな。150万部のベストセラー「心を整える。」で有名な長谷部誠選手の手記を読んで、社会的促進と社会的抑制について書きたくなりました。

100%の力でプレーしているつもりでも、まっ

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はじめまして。インテーク面接|臨床心理士への随録 心理学

はじめまして。インテーク面接|臨床心理士への随録 心理学

インテーク面接とは、医療機関や相談機関にやってきたクライエントに対して行う初回面接のことを指す。「インテーク(intake)」は、動詞であれば「受け入れる」名詞であれば「摂取」を意味する。困りごとやその周辺情報をお聞きし、見立て、インフォームド・コンセントを行い、支援ないし治療同盟を締結する。

機関ごとの違い現場に出て、メンタルクリニックで行うインテーク面接と、大学院の心理相談室で行っていたイン

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待つ仕事|臨床心理士への随録 心理学

待つ仕事|臨床心理士への随録 心理学

どんな文脈だったのかは忘れたが、ゼミ中に教授の口からもれた「待つことも(心理の)仕事のうちだからね」という言葉が胸に残っている。感じた芳潤さは長きに渡る臨床現場での経験から醸されたものだったのだろう。

「待つ」を辞書で引くと、①物事・人・時が来るのを予期し、願い望みながら、それまでの時間を過ごす。また、用意して備える。②しようとする動作を途中でやめる。③相手の反応や態度がわかるまで静観する。と記

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「ワンパンマンが今の時代にウケる理由」 臨床心理士への随録 心理学

「ワンパンマンが今の時代にウケる理由」 臨床心理士への随録 心理学

将来の夢はプロゲーマーかユーチューバーという息子氏が、鼻息荒く駆け込み熱を帯びた口調でこう訴える。「父さん!ワンパンマンのコミック買っていい?」どうやら友人宅で読んで気に入ったらしい。

ワンパンマン。父さんも名前は知ってるぞ。キン肉マン初期のようなヒーロー系ギャグ漫画であり(後にちょっと違うなと気づく)、ワンパン(ワンパンチ)で全ての敵をやっつけてしまう、ということくらいだけど。まあ、そこそこ面

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ケアとセラピー「居るのはつらいよ」東畑開人著 臨床心理士への随録 心理学

ケアとセラピー「居るのはつらいよ」東畑開人著 臨床心理士への随録 心理学

カジュアルな感じで読めるこの学術書は、第19回大佛次郎論壇賞を受賞されました。沖縄時間の中で行われるデイケアのほのぼのしさと、読み進めるほどにジワる「居る」怖さ。この先、仕事でデイケアにも絡んでいくので、とても考えさせられました。ケアとセラピーは似て非なるもの、混ぜるなキケン。支援者がきちんと認識して枠を設けることでお互いが守られるのです。

「居るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚書」東畑

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「メンタルケアの基本は呼吸法にある」 臨床心理士への随録 心理学

「メンタルケアの基本は呼吸法にある」 臨床心理士への随録 心理学

この前ひさしぶりに人前で話をする機会があり、袖で自分の出番を待っている間にもの凄く緊張してきて、心臓がバクバク高鳴りしたんです。「いつ試すの?今でしょ(古い)」とばかりに漸進的筋弛緩法を実践してみたら、本当にすぐに収まったんですよね。びっくりしました。

漸進的筋弛緩法とはジェイコブソンが開発したリラクセーション法で、体の一部の筋肉を一旦緊張させた後に一気に弛緩させ、その筋感覚を感じ取ることで更に

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「死生観と私」 臨床心理士への随録 心理学

「死生観と私」 臨床心理士への随録 心理学

私の修士論文研究のテーマのひとつは「死生観」。物心ついた時からずっと自分の片隅に居続ける「死」は、私の人生のテーマでもあるのかもしれません。

幼少期に恐れていたものは、お化け。その理由は生きていないから。生きているものは自分も生きているからわかった気になれるけど、死の側は体験がないのでわからない、想像がつかないから怖い、こんな感じでしょうか。今なら生きてる人間のほうがよっぽど恐ろしいと思いますけ

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3月のライオン「うつ病九段」先崎学著 臨床心理士への随録 心理学

3月のライオン「うつ病九段」先崎学著 臨床心理士への随録 心理学

将棋をモチーフにした人間成長物語「3月のライオン」(読むといつも泣いてしまう…)を監修するプロ棋士さんが経験した重度のうつ病体験記です。書かれている状態や気分は、私の知るうつ病と印象が違いました。入院が必要なレベルってこれなんだ、と。自殺とうつ病の関係は、数多の精神病や障害の中において特に有意であると云われます。その所以が窺い知れます。

「うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間」先崎学著

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「女性に多い摂食障害を私は理解できない」 臨床心理士への随録 心理学

「女性に多い摂食障害を私は理解できない」 臨床心理士への随録 心理学

摂食障害は神経性やせ症、神経性過食症、特定不能のものに分類される。行為としては食べない、食べすぎる、食べて吐くが代表的。統計では10:1で女性に多く発症する。

女性に多いひとつの理由は、社会的な容姿美の基準にある。現代は痩せていることが美しさの前提要素であった。今、その絶対的な世界観は崩れつつある。2017年にクリスチャン・ディオールとグッチが、ファッションショーに痩せ過ぎたモデルを使わないこと

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「中年の星」 臨床心理士への随録 心理学

「中年の星」 臨床心理士への随録 心理学

巨人の星は星飛雄馬、愛知の星は諸星大(スラムダンク)、さて中年の星は。

中年は何歳か中年とは何歳くらいだろう。中高年と言われたら幅の曖昧さが一気に増す感じがする。高齢者は65歳以上が一般的かもしれないが、定年退職や年金支給が70歳になったらどうだろう。かつては60歳が高齢者と言われていた。発達心理学においても、時期・期間の呼称や区切りの年齢は学者によって定義が異なる。

生涯発達理論で中年期また

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「ともにある 湯布院・緩和ケアの集い」神田橋條治著 臨床心理士への随録 心理学

「ともにある 湯布院・緩和ケアの集い」神田橋條治著 臨床心理士への随録 心理学

上記のような状態の患者さんに対し、神田橋先生は「察知」を駆使して、そこにある仮性幻覚の世界へ入り込んでいきます。文字言語と科学的思考は必須としたうえで、しかしそれだけでは対処できない世界があるのです。ロジカルに、可視的に、エビデンスベースドに生きることが求められるビジネス社会でも、この事実を忘れてはいけない気がするのです。

「ともにある 湯布院・緩和ケアの集い」神田橋條治著

「パーソナリティ障害 いかに接し、どう克服するか」岡田尊司著 臨床心理士への随録 心理学

「パーソナリティ障害 いかに接し、どう克服するか」岡田尊司著 臨床心理士への随録 心理学

「心に残っている映画を3本挙げよ」と問われたら、19歳の頃に観た「ギルバート・グレイプ」を出さないわけにはいかない。ジョニー・デップ演じる主人公がとらわれから一歩踏み出す物語なのだが、主人公自身も依存性パーソナリティ障害でイネイブラーの設定だったとは、この本を読むまで気がつかなかった。

パーソナリティ障害の問題は、うつ病・自閉スペクトラム症・引きこもり・依存症などとの合併も多いが、基本的にそれ単

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片手で打ち合わす音「ユング心理学と仏教」河合隼雄著 臨床心理士への随録

片手で打ち合わす音「ユング心理学と仏教」河合隼雄著 臨床心理士への随録

日本は宗教観が生活に無意識にとけ込んでいる国だと思います。普段何気なく使う「もったいない」や「いただきます」の言葉には、森羅万象や全命同根の仏教的思想が織り込まれています。科学や経済が急速で発展し、社会や人々の価値観が絶対唯一から多様性へと変遷している今、よりどころとしての宗教や、日常の外にある宗教がもつ意味について改めて考えています。

「ユング心理学と仏教」河合隼雄著心理療法によって誰かを治す

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