見出し画像

「女性に多い摂食障害を私は理解できない」 臨床心理士への随録 心理学

摂食障害は神経性やせ症、神経性過食症、特定不能のものに分類される。行為としては食べない、食べすぎる、食べて吐くが代表的。統計では10:1で女性に多く発症する。

女性に多いひとつの理由は、社会的な容姿美の基準にある。現代は痩せていることが美しさの前提要素であった。今、その絶対的な世界観は崩れつつある。2017年にクリスチャン・ディオールとグッチが、ファッションショーに痩せ過ぎたモデルを使わないことを発表した。国内における摂食障害患者数の減少傾向と、多様性社会への変容は無関係ではないと感じている。

あとは生理学的な側面。何で読んだのか、男性は性器のつくり凸や射精、狩猟などの歴史的社会役割から感覚が外向き、女性は性器のつくり凹や妊娠、家を守る歴史的社会役割から内側に宿す感覚が強いという。食べ物を体内に詰め込んで満たされようとするこの病は、女性の感覚との相性がいいのかもしれない。

私は今まで摂食障害を避けて来たきらいがある。男性的思考ゆえかもしれない、感覚的なところでよく理解できないのだ。しかし、クリニックではクライエントを選ぶことはできない。最低限の知識と具体的な施術は身につけておきたい。

臨床現場ではBMI=14.0以下を対象にする。低体重が飢餓状態に近く、低血糖や電解質異常、肝障害、消化器障害、心機能障害など生命危機がある場合は、内科的治療による体重回復が優先される。BMI=16.0以上を当面の目標にする。ちなみに、世界保健機関(WHO)のガイドラインでは、BMIが18.5以上25.0未満を標準体重、18.5未満は低体重としている。

発生原因に特定の理由はない。ダイエットや受験、友人関係が契機となり、青年期から成人前期に発症することが多い。専門機関に勤める臨床心理士先生は、挫折感をキーワードに挙げていた。あとは我慢強い性格、完璧主義、負けず嫌い、自己肯定感の低さ、自己愛傾向など。何か自分で統治できない挫折的状況に陥ったとき、自分でコントロールできる何かに救いを求める。それが自分の体重だったりする。

この病の支援の難しさは、本人が治したがらないことにある。その人にとって、痩せていることに意味(自己効力感が高まる)があるからだ。痩せすぎだから太りなさいというアプローチは刺さらない。脱毛、多毛、むくみ、座ると骨にあたって痛む、異常に疲れる、常に寒いなど、困っていることに関連させて治療に繋げる。

治療はチーム医療で臨みたい。身体面に関しては医師と看護師に任せて、心理士は生活で困っていることの改善、認知の再構成などを担当する。クライエントの性格は強迫性傾向で全か無か的思考な人が多く、認知行動療法で偏りを柔らかくすることはできるかもしれない。

心理教育では、乱れた食行動は今経験している感情的なストレスから一時的に目を逸らせる術にすぎないことや、自分の飢えについて認知することがポイントになる。つまり、自分が必要としている食べ物は、物質的な食べ物ではないという理解。精神的な飢えを認識し、それが象徴するものを認識できてはじめて、本当の意味で飢えを満たすことができる。いずれにせよ、まずは褒めて労う姿勢をもって自尊心の回復から始めていきたい。

当事者同士による集団療法の有効性も実証されている。摂食障害は専門的に取り扱う機関へのリファーも視野に入れ、クライエントの利益最優先で取り組みたい。

※ ※ ※ ※ 
参考図書:摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語 乱れた食行動を克服するために アニータ・ジョントン著


この記事が参加している募集