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モノ書き

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#小説

人生カタログ本

分厚い本を渡された
ずっしりと重量感のあるそして、いい素材の紙を使っているであろう、固い本。

「この中であなたが望む人生を選んでください。その通りに歩むことが出来ます。」

冷たい笑顔で言い放つ。

ペラペラっと中をめくってみる

大きなソファに座って脚を組む男性。
いいスーツを着て優しい微笑みをしている。
一目でわかるお金持ち。

かと思ったら良い具合に日焼けをしたサーフボード片手に写る若そう

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幸せの魔法使い

幸せの魔法使い

わしの友達には“魔法使い”おる。
その“魔法使い”が現れると、一瞬にしてその場が明るくなる。
蛍光灯が新しいものに変わった…わけでもない、その“魔法使い”が自ら光ってる…わけでもない。
ただ、その“魔法使い”を呼ぶ時は注意しなくてならないんじゃ。
“魔法使い”と言われることが嫌いだからなぁ。

なぜ、“魔法使い”かわかったかって?

簡単なことだぁ。

とてつもない威力があるかじゃよ。

人を笑の

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帰り道

帰り道

駅に着く。
電車から多くの人が吐き出されていく。
暖かい電車の中とは違ってひんやりとした風を感じる。
この温度差が私の家路を引き締める。

家までは約20分ほど。
自転車を使っていたが、パンクという出来事をきっかけに歩いている。
行きは太陽の暖かさを感じ、夜は空を見上げ星の瞬きに心癒されている。

ふ〜。と、一息ついて歩き出す。
電車から吐き出された人はもうまばらで、前にはスーツ姿のサラリーマンし

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平成22年2月22日

平成22年2月22日

夜、連絡が来た。

「今、何してるの?」

その日は昼間にマラソン大会へと行っていて、疲れた身体をドーンとベッドへと投げ出しウトウトしそうな時だった。

「ん?今⁉︎なんもしてない!」

そんなに焦らなくてもいいのに。
電話の相手が彼と知ってから今日2回目のドキドキ感を味わっている。

「マラソンお疲れ〜。どうだった?」

「あー!まぁまぁ良かったよ‼︎」

「そっか!疲れてない?」

「ん?全然

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海岸線

海岸線

颯爽と走る

右には穏やかな海が見え、左には大好きな君がいる。

窓を開けて風を感じながらお気に入りの曲を聴いて。

ここの道が好きになったのも君の
「鎌倉に行きたい。」
という一言からだった。
君は僕と出会う前からそっち方面にはよく行っていたようだし、1人でも行けるはずなのに、何度も僕を誘ってくれた。
そして、僕も虜になってしまった。
何も考えない、この海風が僕自信を包み込んでくれるようなそんな

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歩車分離信号。
スクランブル交差点ではない交差点。
斜めに渡ってはいけないけど渡ってしまう。
今朝、点滅しそうな信号を斜めに渡るか悩んでまっすぐ進む。
どこまでもスマートでいたい。
そんなプライド。
#いらないプライド #小説 #ショートショートショート

春のあたたかさ

春のあたたかさ

澄み渡った青空。
手をどんなに伸ばしても届かない、綺麗な青空。

ソファに座りながら、外の風景を楽しんでいた。
手には読みかけの本。
テーブルにはまだカップから湯気が出ているコーヒー。
昨日、出張から帰って来たいっくんがお土産としてくれたクッキーも添えられている。
穏やかな土曜日。
隣に座るいっくんはまた難しそうな顔でパソコンを見ている。

ハー
大きく息を吐いて
思いっきり吸い込む。
隣のいっく

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うそばかり

うそばかり

「今好きな人とかいるの?」

落ち着いた低い声、綺麗な瞳、ハンドルを握るその繊細な手。いつもあなたは私をドキドキさせる。
でも私は知っている。あなたに“彼女”がいること。そしてこのドライブだってあなたの暇つぶしだってこと。

「好きな人が誰か言わないと帰してあげない」

笑っちゃう。自分って思ってるんでしょう?自信があってそう聞くんでしょう?答えてあげない。だってズルいじゃない。私が恥をかくだけ。

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calling me

calling me

湿気を含んだ風が、頬を流れる。
付き合うってなんだっけ?

波の音。車の音。
月の灯りと海岸線に並ぶお店の明かりで打ち寄せる波もはっきりとわかる。

何時間いるのだろう。なんて思ってみたところで何時間も経っていない。なぜなら、この場所に来るまでに1時間以上費やしたから。その間に頭は整理される。あとは気持ちの問題なのだ。
海の音とキラキラ光る水面。そんな時間をかけてやってくるのには、誰もいないであろ

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カラス

あれやこれやを考えても
あれやれこれやれと言われても
あれもこれも出来なくて

なぜやる、の他人の問いも
やればできる、の他人の声も
搔き消してしまうくらいにシャウトしたい

なんのため?がつきまとい
本当の自分とやらに追いかけられ
結局楽しさが一番と
開き直るのもお手の物

何も考えず
何も期待せず
ただひたすら走っていた
がむしゃらだったあの頃にもどりたい

心の叫びに忠実に
その扉を開けてみ

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切り花の一生

切り花の一生

今日はより一層月が輝いて見える。
パッとしない1日を最後の最後に「今日もお疲れ様」と、ほんのり照らしてくれているようだ。

なんとなく、納得いかない日だった。
思い通りにいかない、もう少し考えて欲しい、まわりを見て欲しいなんて…。
何の問題もないように回っていそうな歯車は、本当は誰かが一生懸命回していて、ただ単に他の歯車は回されているんじゃないか、なんて思ってみたり。自らが回ることができたら、1つ

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曇り時々晴れ時々大雨

曇り時々晴れ時々大雨

晴れた顔をしているようで、君の顔は曇っている。僕にはわかる、君のことだから。
優しい言葉でその雲を払いのけたいけれど、僕にはそんな力はなく、一層の事大雨を降らして、雷でも突風でもこの地を荒らして欲しい、なんて考えてしまう。

北風と太陽。
僕が北風だとしたら、君の前にある大きな雲を僕は吹き飛ばすことが出来るだろうか。

頑張りすぎだよ?
肩の力を抜いていいよ?
僕に頼って?
僕じゃ頼りなければ

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ツユノート

ツユノート

生暖かい風が、私達の間を吹き抜ける。
暑いなぁ、そう言ってあなたは繋いだ手を離してコンビニで買ったアイスやら飲み物やらが入った袋を左手から右手に持ち変える。
反対側に回ってもう一度手を繋ぎに行けたらいいのだけど…らしくないことも出来ず、離された左手は温もりが消え去り、私にただ引っ張られ付いてきている。

前からウォーキングをしているご夫婦がやってきた。
首にタオルを巻いて腕をよく振って歩いている。

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予測不能

予測不能

今日の君と明日の君
元気がいい日か違う日か
会わないとわからないなんて
僕は怠い

同じ私なんて存在しないの
力強く言うもんだから
反論できず
今日も僕は同じ僕で君に会いに行く



扉をあければ涼しい風が僕を迎える一方で
遠く彼方にはどんよりした黒い塊も見えている
壁にもたれる傘を見て
チラッと見せる女神を信じて
持たずに出よう

少し歩いて気づく女神の嘘
ポツ
ポツ
冷たい雫が僕を撫でる

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