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帰り道

駅に着く。
電車から多くの人が吐き出されていく。
暖かい電車の中とは違ってひんやりとした風を感じる。
この温度差が私の家路を引き締める。

家までは約20分ほど。
自転車を使っていたが、パンクという出来事をきっかけに歩いている。
行きは太陽の暖かさを感じ、夜は空を見上げ星の瞬きに心癒されている。

ふ〜。と、一息ついて歩き出す。
電車から吐き出された人はもうまばらで、前にはスーツ姿のサラリーマンしかいない。
この人も歩きか…。

テクテクテクテク。

進む道が全く同じ。
おまけに歩くペースも同じ。

テクテク。

…。
…。

「今日の星は綺麗ですね。」
そういったのはほんのすこし前を歩くあのサラリーマン。
振り向いた顔は笑顔が街灯に照らされキラリと光る。
「…そうですね。」
星を見る暇もなくただ言葉だけが外へ出る。

「帰りはこっちの方ですか?」

仕事終わりとは思えない爽やかな笑顔。

「はい。」

その笑顔から目が離せない。

「よかったら一緒に帰りましょう。」

戸惑いながらも

「あ、はい。」

と答えていた。

物騒な世の中。大丈夫なのか、様子を見ながら歩き始める。

「お仕事でしたか?」
そのサラリーマンさんの変わらぬ笑顔と穏やかな口調は私の心の警戒心を解いていく。
仕事の話、趣味の話、恋愛話はほんの少し。
初対面と思えないほど会話が弾む。
しかし、あっという間に分かれ道に着いてしまった。
なんだか…寂しい。
たった10分程だったのに。

「僕はこっちに行きます。」

「そうなんですね。とても楽しかったです。」

「僕も楽しかったです。」

「また、帰りが一緒だったらお話してください。」

「もちろんです。…あの、もしよかったら、この後…」

「…えっ?」

「いや‼︎変な意味はないんですけどっ!もし…よかったら一緒に飲まないかなぁ〜なんて…」

「…えっ?」

「あっ!ぜんっぜん!気にしないでください!」

「……。」

「…一緒に話をしていて、楽しかったので、よかったら…どうかなぁ〜なんて。嫌だったら断ってくださいね!」

「ふふ。ぜひ、お話の続きをしましょう。」


商店街のちいさな飲み屋へと2人で向かう。


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