都市(まち)に関わる映画のご紹介 ④ 前半
こんにちは。
本日ピックアップさせて頂くのは、まさに”都市計画・デザイン”にフォーカスをした映画であり、都市に関わる専門家(アーバニスト: Urbanist)や市民の奮闘をドキュメンタリーで描く The Human Scale(ザ・ヒューマンスケール)です。
こちらの映画は2012年に公開されていますが、恐らく日本では上映されていないと思います。
今まではネタバレを考慮して、あまり物語の内容を書いてこなかったのですが、こちらの映画に関しては日本語吹き替えが無く(恐らく日本語字幕も無さそう)、また私が大学院で学んでいる多くのこととリンクしてくるため、いつもより詳しく書いていこうと思います。
もちろん、この記事を読んだ後でも十分映画を楽しんで頂けると思いますが、ネタバレを多く含むことになるので、その点が気になる方は事前に一度本編をご覧になった上で次のページに進んで頂ければと思います。(予告編はここに貼っておきます。)
まえがき
こちらの映画では、主に世界的に有名な建築家ヤン・ゲール氏率いるゲール・アーキテクト(Gehl Architects)が請け負ってきたプロジェクトを通して、今人々がまちに必要としているものは何なのか?を模索しながら、都市戦略計画や都市デザイン計画を描き実行していくストーリーです。
映像は大きくの3つの視点(ヒト視点・トリ視点・ヘリコプター視点)で構成されており、特にヒト視点が一番多く使われているので疑似旅行の様な気分も味わえ、ドキュメンタリーが苦手な方でも見やすい様に設計されています。
タイトルにもある”ヒューマンスケール”とは、ヤン・ゲール氏はじめ多くのアーバニストが都市を考える上で最重要視しているコンセプトであり、この映画はヒューマンスケールとはどんなことを指すのか?を感じ取ることができます。
またゲール・アーキテクトの話がメインにはなるのですが、映画の舞台となる様々な都市に応じて公共部門やプライベートカンパニーの専門家も登場してくるので、とても見応えがあります。
例えば、ニューヨークシティを”ヒューマンスケール”で構造改革を行い有名となった、ジャネット・サディック・カーン氏も登場しその話を語っています。(昨年、日本でもその取り組みに関する翻訳本が発売されているので、ご興味がある方はこちらをクリックしてください。)
では、少しまえおきが長くなってしまいましたが、ここからは映画同様、5つのチャプターに沿って私が面白いと感じたところを記載させて頂きます。
Chapter 1 - ”First we shape our cities, then our cities shape us”
私たちが私たちの都市をつくり、また私たちは私たちの都市によってつくられている。
直訳すると、頭が?になっている方も多いかもしれませんが、この表現はよく使われる表現で、要は、物理的に人間は都市をつくってきたが、人間が持つ価値観もまた都市によって形成されているという相関関係を表しています。
この章では、学問でいうところの自由主義(liberalism)及び現代主義(modernization)と言ったような理論の都市にに該当する、20世紀の産業革命から世界的な経済の急成長があった時期のことをメインに描いています。
経済の急成長とそれに伴う人口の爆発的増加によって、住宅地の不足が発生し、団地政策やニュータウンと呼ばれる郊外の大型宅地開発が行われました。映画ではその様を、
と表現されています。”機械”と表現することでヒトとは切り離された冷酷なイメージを植え付けており(当時は大量生産が正とされている時代背景ということも暗喩されていると思います。)、都市が”人の生活に根付くもの”から”単なる道具”に変換されたと言い表していると感じました。
また、実際の都市の例として、このチャプターでは中国の北京(世界で最も著しい経済成長を遂げてきた都市)の都市景観及び人々の生活の変化を描き、それによって発生したネガティブな影響を説明しています。
話を北京に戻すと、高層ビルがひしめき車を中心とした交通が率いる大都市と変貌したことで、伝統的な中国の都市にあった地域住民同士が触れ合うポイント(Interactive space)が姿を消し、公共空間でヒトが快適に過ごす為のアメニティもなくなり、ワーキングスタイルの変化によってそもそも地域住民と出会うことすらなくなってしまった。ということが描かれております。
これは日本でも当てはまる部分があり、私はこのチャプターを観ている時、山本 理顕 さんと仲 俊治さんが著者の『脱』住宅で描かれていた、家の機能的セキュリティが高まれば高まるほど、地域住民の絆をベースとした社会的セキュリティが弱まっていく。という話を思い出しました。
Chapter 2 - "You measure what you care about"
第2章では、ニューヨーク市の事例を基に、あなたが”ケアしていること”を測定する。ということにフォーカスして話が展開されます。
少しわかりにくいと思うので、意訳をさせていただくと、都市に含まれる様々な要素の中でどの要素に対してケアをするのか?を絞ることによって、都市をどう形成していくか?の優先順位は変わる。ということです。
また、設定した優先順位に基づき、仮説(変化を起こす必要性)を立て、実態調査を行い、調査結果をベースに実証実験を行いエビデンスを取得する。という一連の動作も示しています。
こちらはタイムズスクエアが車中心から歩行者中心に空間設計を変更された有名な写真ですが、この第2章の文脈で言うと、モビリティを第一優先としてケアしてきたニューヨーク市をその空間にいるヒト(住んでいる人・訪れる人)にケアの対象を変えて再形成してみよう。ということです。
ちなみにこの再形成を実行するため計画をつくったのですが、これまでニューヨーク市では歩行者の街における活動に関して調査をしてきていなかったので、何を調査するのか?を考えるところからスタートしています。
ここは映画よりも、まえがきでご紹介した本に詳しく記載があるとは思うのですが、以下の5項目が映画では音声でのみ、説明されておりました。
ちなみに私の理解ですと、アクティビティは何かしら人が起こすアクション(活動)を示唆しており、エンゲージメントは誰かの行動によって起こされる、あるいは自分の行動によって誰かの行動に影響を与えるアクション(活動)を示唆しています。
(*英語が堪能な方は、それぞれの解釈で理解して頂けると嬉しいです。)
また、私がこの章で最も印象に残っているのは、ジャネット・サディック・カーン氏率いる交通局が、この変革を起こそうとした時にタクシードライバーから寄せられたクレームです。
もちろん、交通局は調査と実証実験を行った上で自転車レーンの導入に踏み切った訳ですが、これまでのニューヨーク市のシンボルといえば、イエローキャブ(タクシー)であり、人が目まぐるしく動きひしめく活気ある都市であった為、自転車や歩行と言った移動速度の遅くなる交通手段は街にそぐわない。という考えと、自分たちの仕事に悪影響である。
という2つの側面から、このクレームを申告したと思います。
都市計画を勉強していると、経済環境を保ちながら自然・社会環境がよりよくなる様に戦略を考え、実行していくことが当たり前になってきてしまうのですが、人によって物事の優先順位(当たり前)は変化する。ということを今一度教えてくれるフレーズです。
他にも、ニューヨーカーらしいセリフがちょこちょこ出てくるので、第2章をご覧になる際は、是非その点にも注目してみると面白いと思います。
ここまでが第2章までのざっくりとした話になるのですが、いかがでしたでしょうか?
もっと詳しく知りたい!という方は映画をご覧になって頂けると、より深く理解できると思います。(現在、Vimeoで映画のストリーミングを購入することが可能です。)
かなり長くなってしまったので、第3章から5章までの話は後半として、別記事で書かせて頂きました。
最後まで読んで下さり、ありがとうございました!
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