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#55【雑感】3.11に寄せて アンサング・ヒーロー

※画像は内容のイメージです。画像生成AIが「ピンク色の象」を何度やっても理解してくれなかったため、へたっぴいな絵ですみません。

今日は3月11日です。
東日本大震災から13年が経ちました。

改めて、犠牲となられた方々に哀悼の意を捧げ、ご冥福をお祈りします。
また、被災された方々にも、お見舞いを申し上げます。

今日はかぐや姫シリーズはお休みして、3.11に寄せた短文を書くことにしました。

くらたは転職した初年度でした。
発災時、11階建てのビルの8階にいたのでかなりの揺れを感じ、天井は剥がれコピー機は転がり、場は騒然としました。

くらたの係は居眠り係長とくらたのふたりだったのですが折悪く係長は外出中でした。当時のくらたの課長、せっかちな白うさぎ課長(アリスの白うさぎのイメージ。公式サイトへリンク)が、課員全員に、仕事の手を止めて家族に電話していいよ、と言ってくれました。くらたは転職後最初の課長として厳しく優しく面倒を見てくれたこの課長をとても尊敬しています。
しかし、電話は何度かけても全くつながりませんでした。くらたの家は自営業で、耐震などという概念はなく物が積んであるので、両親が下敷きになってやしないかと、気が気ではありませんでした。

このときのくらたに声をかけてくれたのは、いつも飲みに誘ってくれていた理知的強面インテリヤクザ係長ではなく、両手の親指・人差し指・中指、計6本ですべてのキーボードを打つ、温厚で控えめなおじさんのビンボン係長でした。ビンボンとは、ディズニーピクサーの名作『インサイドヘッド』に出てくるピンクのゾウのキャラクターです(公式HPへリンク)似てたので。
島にひとりで必死の形相で電話をかけては落胆してヤバい表情になっている一年目を放っておくことはできなかったのでしょう、ビンボン係長が、一緒にやっていた業務について一言二言かけてくださいました。わざとらしいいたわりなどではなく、業務に関する言葉だったと思います。
その一声でくらたは我に返り、ほっと一息つくことができました。まったく今ではなくてもいいことだったけれど、だからこそ、ビンボン係長の目的はその内容ではなくて、わたしに声をかけること自体だと伝わってきた。また、正常性バイアスではないことは目や表情から理解できました。

白うさぎ課長は地震のための緊急会議に出ずっぱりで、課には係長以下しかいませんでした。課長補佐は悪い人ではなかったけれど、その場にいたんだか、いなかったんだか、正直よく覚えていません。すみません。

ビンボン係長はふだん出しゃばることのない方でしたが、その時はコピー機を元の位置に戻したり、はがれた天井のタイルボードをテープで補修したり、縦横無尽の活躍をなさっていました。
その間中、ふだんどおりの温厚で控えめな笑顔のままでした。

そのことが、課員にどれだけ安心をもたらしたか知れません。
「頼りになる」とはこういう人のことだと思いました。

その後しばらくして家には連絡が付き、あの物量の中で奇跡的に何も落ちてこなかったと聞きました。よかった。
また、遠方に住んでいる友人や親せきにも無事を伝えました。

地震対応で働き詰めとなった白うさぎ課長はその年の3月過労で倒れ、救急車で運ばれました。年度末に数日休んで回復し、白うさぎ部長になりました。送別会で「ちゃんと休んでくださいよ、心配するんだから!」と小娘だったくらたに言われて、何とも言えない表情をされていました。生意気ですみませんでした。
数年後、くらたの昇任試験の際は、論文を見てくださいました。
外部団体へ出向となられて数年になりますが、どこかで定年を迎えられたか、今どうなさっているのかわかりません。

また、ビンボン係長はくらたの異動後もその課にいらっしゃいましたが、定年退職されたのか、数年後にはイントラネットでは検索できなくなっていました。

以上、3.11にまつわる、わたしがいなくなったら誰も語ることのない言葉でした。
どれだけ感謝している相手でも、また、生きていても、いつが別れのあいさつになるかはわからないものですね。
お二人にもしまた会えるなら、改めてお礼をお伝えしたいです。

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