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春夏秋冬のはなし

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‪(*´◒`*).。o○春夏秋冬をテーマにした小説
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#ちょび

掌編小説「セツナハナビ」

掌編小説「セツナハナビ」

 花火なんて何年ぶりだろうか。
 僕の横に座った香織がくすっと笑った。小さい頃には長かった黒髪も今では短く揃えてふぁさっと軽やかに揺れる。横顔は花火の緑に照らされて。
 小さい頃よく遊びにきた砂浜。田舎だからなのか、夜になれば人気もほとんどいなくなるような、だだっぴろい世界。夜の砂浜も、怖くなくなったんだな香織。

「花火ってさ、やってると馬鹿みたいに楽しい気分になったり、かと思えばしんみりしたり

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七月の海はまだ冷たいけど

七月の海はまだ冷たいけど

 夏の海といっても、七月の入りではまだ冷たい。晴天の昼間だというのに砂浜にいるのは僕と彼女の二人しかいなかった。
 僕は後ろから彼女の背中を見ていた。彼女は裸足で濡れた砂の上に立って、時折さらいにくる波の冷たさにきゃっとかひゃっとか声をあげていた。
「気持ちいいかい」
 声をかけると彼女は首だけで振り返って、にひひと笑った。
「冷たくて笑っちゃう」
 どういう感情なのかと、僕が考える間に彼女はパシ

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四月の淡い青

四月の淡い青

朝、目が覚めると四月だった。カレンダーをめくって三月を捨てる。

 カーテンを開けると外から小さくパパパッと音がした。窓に水滴が垂れて光を反射させている。

「雨……」

 二〇一七年の四月はしっとりと始まったようだ。

「雨だねー」

 突然、後ろから話しかけられて驚いた。むっとして振り向く。肩まで伸びた髪をぼさぼさっと手で梳いて、葵が立っていた。

「おはようコーちゃん」

 まだ眠気の残って

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小説『冬の記憶』

 一月のコーヒーショップは暖かったけれど、いつまでもいるわけにもいかない。
 多少寒くても、家に帰ればぐうたらな君を見れるし、ぐうたらな僕でいられる。そう思うと、すぐにでも帰ろうかと思う毎日だった。
 歩いて数分もしない家に、帰ろうかと提案したら帰ろうかと返事が来た。
 外気は冷えて、澄んでいた。不純なもののない空気。
「雪のにおいがする」
 コーヒーショップを出たところでそう言った僕に「ほんとだ

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小説『ふわふわ』

小説『ふわふわ』

「ふわふわ」が君の口癖だった。感触の表現はもちろん、気持ちが落ち着かないときも身体が熱っぽいときも、そして春になったときも、君はいつも「ふわふわ」と言った。

「春がふわふわするってどういうこと?」
 付き合い始めて最初の春だった。初耳の表現につい君に尋ねた。君の返事は質問だった。
「春だなあってどういうときに感じる?」
 難しいことを聞くなあと思いながら、直感で答える。
「んー、冬が終わって

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