読書人間📚『雪花葬い刺し』赤江瀑/「歪んだ名画」から
『雪花葬い刺し』 赤江瀑 / アンソロジー「歪んだ名画」から
赤江 瀑 (あかえ ばく)
(1933年〜2012年)79歳没
歌舞伎や能など伝統芸能を題材にした作品を多く遺す。
『オイディプスの刃』角川小説賞、
『海峡』『八雲が殺した』泉鏡花文学賞受賞。
1975年4月号『問題小説』初出
1982年4月『青帝の鉾』文藝春秋(絶版) 収録
『青帝の鉾 』『夜よ禁めなき旗なき』『虹色の翅の闇 』『アヘンの馬』『雪華葬刺し』の5篇。
生々しいタッチの装画です。欲しいなあ。
2度、直木賞候補となるが受賞には至らず。
けれど、その独特の世界感が熱狂的なファンを持つと言うのも納得。耽美、官能、エロティシズム、愛憎、狂気、それらは"絢爛たる魔性の美学" と評され、その傑作の一つ、本作『雪花葬い刺し』で初めて味わえました。
例えば、フェティシズムや怪奇、エログロの江戸川乱歩や、耽美、退廃的なオスカー・ワイルドが好きな方には想像に近い類、世界かもしれません。この作品は美術作品を土台にしているので、多少説明的な部分が多い様に思えますが、私としてはその美術作品を調べる楽しさもあり、たっぷりと魅き込まれました。
本文、
"若者のゆたかな隆起が、茜の花芯を押し開き、貫入をはじめたからであった"。
私の頭の中は渦巻き、思考停止。あまりにすっと溶けこんで来たので何が起こったのか一度で理解できません。馬鹿ですねえ。こういうものを読み慣れていない証拠でもあります。そのコトをダイレクトに伝える本ばかり読んでいる私にはオッと、つっかえる高尚で優美な言い回し(この部分だけ取り上げるとあからさまではありますが)。作品一体を通して操る言葉の数々は、妖しげでありながら華麗で気高い美しさに満ち、その甘美な文章に確固たる知性を感じます。
さて、本作品で扱われるのは
歌川 国芳 (うたがわくによし)
江戸時代末期を代表する浮世絵師の一人、葛飾北斎に影響を受けています。
寛政9年(1798年)〜文久元年(1861年)
こんな人です。って自画像はお顔が見えませんが、大の猫好きだったと言うように、側には猫が好き好きにしている様子が描かれています。猫愛が伝わります。国芳の丸い背中と猫がシンクロしていますね。国芳も心は猫なのでしょう。ふっ、かわいい。
先ずは『本朝武者鏡 橋姫』の図柄が取り上げられます。
国芳、文政初年から万延元年にかけて「一勇斎国芳」を画号とした時の作品でしょうか、本書では「歌川一勇斎国芳」と言う名(画号)で書かれています。
このシリーズでは今のところ12作品ありますが、その中のこれ、赤江瀑さんが選んだように本書にしっくりします。女の体に彫るは、龍と闘う橋姫と、墨と紅の色合い。
そして、若い男の体には、こちらも国芳の描く、
『水滸伝豪傑百八人之一人』シリーズ『浪子燕青』。
凛々しい顔つき、お尻からふくらはぎにかける筋肉の躍動感。刺青にふんどし?のだいだい色が洒落ています。
同じく、若い男の体に『水滸伝豪傑百八人之一人』 の中から『九紋龍史進』。本書の表現から察するに、この絵だと推測します(間違いであれば御免ください)。
青年の美しさを描いた作品と言うだけに鮮やかな色彩と、棒を振りがさす猛々しい立ち姿に惚れ惚れします(これまた顔踏んでますけど)。
本書文中に「体型、皮膚、肉づき、容姿の調和や微妙な雰囲気、印象. . .人さまざまなそれらの条件を飲み込みながら、彫る人間の希望を入れて、下絵は彫師の頭のなかでできあがる」とあります。
なるほど、やはり彫師は絵を描くセンスが問われる以上に人間と言うキャンバスをどう見立てるかという能力も必要なのですね。
描かれる側にも彫師に絵心があるか?捉える慧眼があってこそ、作品になるのでしょう。
彫師は画家を志した人がなる場合が多いのでしょうか?あるいは独学?興味が湧きます。
絵画、美術作品の面白さを存分に味わえ、現代における美術ミステリーの第一人者を原田マハさんだとすれば、
赤江瀑は歌舞伎や能の伝統芸能をなめらかな美文で表現した元祖美術小説作家と感じさせられます。他の作品も是非読みたい、中毒性のある作家です。
▶︎映画化されています。
1982年カンヌ映画祭に『IREZUMI』のタイトルで出品。高い評価を得、京本政樹の衝撃のデビュー作となり、最後の大映京都撮影所作品。
監督 高林陽一
脚本 桂千穂
原作 赤江瀑
出演者 若山富三郎(城健三朗)、宇津宮雅代、京本政樹
このポスター、ネタばれしているではないか?(焦っ)
小説からすると際どい役どころ、京本さん渾身のデビュー作なのではないでしょうか?こちらも観たい。
本作品、短編小説はこちらの本に収録されています。
朝日文庫『歪んだ名画』〜美術ミステリーアンソロジー〜
赤江瀑さんの本は絶版が多いとのことで、良い短編集を発見しました。面白かったので、他の作品も、また追ってご紹介します。
🌝声、発声、機能を考える
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