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読書人間📚 『真鶴』 川上弘美


『真鶴』 著 /  川上弘美
2006年発刊
平成18年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞作。


美しゅうございました。

素晴らしい。独特な言葉の使い方、文章。
そうすっぱりするのかと、私には新しい文体に感じました。古めかしく感じる言葉はありますが、それも美しい。こんな風に言葉を流すのかとほれぼれします。


現実と幻想を行き来する、浮遊感。主人公のどこにも収まる事のできない心を、くっきりと形あるものとして表さない。真鶴の冷えた空気、風と湿気をまとわせ悲しみを湛えながら読み手に誘いかけて来ます。

P44〜抜粋

あなたは、礼のこと、知ってるの。
礼って。女は聞き返した。
夫よ。

礼、生きてるの?
さあ。
どこで、しったの。
わすれた。

いってよ、もう。
どこに。
いつものところへ。
それが、わからないの。
女は困っていた。困っていても、わたしにはどうしようもない。

あゝ、そうなんだ、そういう事なんだ。と私は悲壮感で胸がいっぱいに。
わからない。わからない、どうしたらいいのか私にもわからない。だからそこに佇むしかないことが私にもわかります. . . 

咲いていたときと寸分たがわぬ形をもったままの椿の花を、つ、と拾いあげた。
_____京、とよびかえされた。椿をいじった指が、口にはいってきた。花芯の、甘くつよい匂いが一瞬たち、それから知らない間に、すっていた。指を。

美しく刹那的であり、そこ此処に悲しみをたたえたままのエロティックな文章にもぐっと掴まれます。
夫と、夫ではない男との描写は、満ち足り引いたり、不快な淀みにとらわれながらも、主人公の "わからない" 現実を解ろうと、心を移す。
そして、娘、母の荒波ではなく、静かな波、その距離感。冷静な中にも主人公を思い包むあたたかさが、私にはなによりも愛おしく感じました。


痛くて、さむくて、ほのぐらい場所を抜ける日が来ると私も思いたい。


まんじりと. . . お薦めの一冊です。



装画 高島野十朗「すもも」
装丁 大久保明子 
文藝春秋

単行本は凝ったデザインになっています。
朱色の文字のカバーを外すと、中から、「孤高の画家」として知られる高島野十朗さんの「すもも」の絵が出てきます。

髙島 野十郎 (たかしま やじゅうろう)
1890年(明治23年)〜 1975年(昭和50年)
東京帝国大学水産学科を首席卒業。
独学で絵を始め、油彩による写実を追求するが画壇との交渉も避け、生涯独身。熱心な仏教家。


遺稿によると、
「花も散り世はこともなくひたすらにたゞあかあかと陽は照りてあり」と最終ページにに綴られていたといいます。その闇をも描く(しびれる!)、髙島 野十郎の絵画を使った装丁デザインは隅々まで格調の高さを感じさせます。

あゝ、素晴らしや。

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🌝声、発声、機能を考える
ボイス・ボーカルレッスン/東京都 
音楽療法(医療行為は行わない)の観点からオーラルフレイル、口腔機能、老化防止を意識した呼吸法、発声のレッスンも行います。

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