chicago no yuki

シカゴの大学で倫理学を教えています。一介の大学教員が読んだオススメ本の感想、時々映画や…

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シカゴの大学で倫理学を教えています。一介の大学教員が読んだオススメ本の感想、時々映画やテレビ、ニュースなどの話も交えてお伝えします。

最近の記事

There There まあまあ

カリフォルニア州北部サンフランシスコの郊外オークランドに住むトミー・オレンジは、シャイアンとアラパホの血をひく作家です。彼のデビュー作、There Thereは、2019年アメリカの本大賞(American Book Award)に選ばれ、ここシカゴでも2023年9月から12月期の「シカゴの一冊」(One Book, One Chicago)に選ばれました。 ずっと読みたいと思いながら機会を逸していて、ようやく読めたのですが、先住民の人たちのことを何も知らないと、またまた思

    • The Trouble with White Women 白人女性の問題

      副題は「フェミニズムのカウンターヒストリー」です。その名の通り、フェミニズムとして、私が習ってきた多くの理論は白人女性による白人女性のためのものだということがよくわかる本です。 著者が4パージ目で言っているように、ホワイトフェミニズムの問題は「どういう問題を見過ごしてきたか、あるいは誰を考慮にいれていなかったか、ではなくて、ホワイトフェミニズムが何をしてきたか、そして誰を抑圧してきたかなのです。」単なる消極的な「考慮に入れなかった」ではなく積極的jにある種(人々)の言説を抑

      • Killers of the Flower Moon 5月の満月の殺人者

        副題はThe Osage Murders and the Birth of the FBI、オーセージ部族の殺人とFBIの誕生です。なぜ、FBI?と思ったのですが、Hoover など出てきて、面白かったです。 さて、ニューヨークタイムズのベストセラーということで手を伸ばしました。これって、実はドラマ化もされて、レオナルド・ディカプリオが一家で一人生き残る女性の2番目の夫を演じ、ジェシー・プレモンズ(ファンです)が、FBIに派遣されるエージェントで、殺事件を解決する清廉潔白、

        • Yellowface 黄色い顔

          なかなかインパクトのある真っ黄色の表紙にアーモンドアイ。作者はまだ27歳で、すでにアヘン戦争を題材とした三部作や、バベルといったSFを出している中国系アメリカ人のR.F.Kuang。 この若さですごい作品です。内容は彼女のアルター・エゴと思われる、若くして作家としての成功を手に入れているAthena。 作品は彼女の友達である白人の売れない作家June Haywardの視点から描かれます。ひょんなことから、Athenaのほぼ完成している原稿を手にしたJuniperは、その原

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          Biting the Hand: Growing Up Asian in Black and White America 飼い主の手を噛む:黒人と白人の国アメリカでアジア人として育つということ

          韓国系アメリカ人、ジュリア・リーによるメモワール。彼女はアフリカ系アメリカ文学(最近ではアフリカ系アメリカ人というい言い方よりもブラックが主流ですが、大学の分野となるとまだ「アフリカ系アメリカ人」が使われています)やカリビアン、アジア系アメリカ文学などを専攻し、教えているアカデミアの人でもあります。 まず、タイトルがいいです。Biting the Hand。これは通常Biting the hand that feeds youというい風に使われるのですが、これは日本語の「飼

          Biting the Hand: Growing Up Asian in Black and White America 飼い主の手を噛む:黒人と白人の国アメリカでアジア人として育つということ

          The Bangalore Detectives Club バンガロール探偵クラブ

          インドの大学で環境学を教えている女性学者、Harini Nagendraの書いたミステリー小説!しかも、1920年代が舞台です。まだまだイギリスの植民地政策が浸透しているインドで、医者の嫁としてバンガロアに来た女性が理解ある夫と、刑事の支えで難事件を解決していくもの。 これは「フライニー・フィッシャー」シリーズを彷彿させます。どちらも、1920年代、女性の探偵が活躍します。どちらも上流階級というのが、ちょっとアレですが、そうでもなければ1920年代に女性が探偵業なんてやって

          The Bangalore Detectives Club バンガロール探偵クラブ

          The Wounded Storyteller: Body, Illness & Ethics

          今月初めに読んだ本。邦訳も出ているようです。邦訳のタイトルもいいですよね。特にこの副題:身体・病・倫理なんて私が今、一番課題としている三代噺みたいで興奮しました。 でもって読んでいる時は確かに興奮したんですが、読み終わってしばらく経ってしまうと、やっぱり、「初めに言葉があった」と言うヨハネの福音書の伝統を受け継いだアカデミア、ロゴスの国の人、と言う感じがしてなりません。 と言うのも、自らの病の話をする人は証言者であり、それによって病気が道徳的責任に変わる、と。それは、本当

          The Wounded Storyteller: Body, Illness & Ethics

          Nuclear Family 核家族

          韓国で生まれハワイに移住してきたジョーゼフ・ハンのデビュー作。題名の「核家族」とは皮肉が込められたもので、実際の物語は父方、母方の祖父母を含む物語で、舞台も韓国、北朝鮮、ハワイを中心に展開していきます。 デビュー作とはいえ、編集などの仕事に携わってきた著者の筆は本当に冴えています。その世界観も素晴らしい。フィクションとノンフィクションが上手に織り混ざり、しかも現実世界と虚構世界の混ざり具合も絶妙です。 主人公のジェイコブは大学を卒業し、アメリカ人でもない、韓国人でもない、

          Nuclear Family 核家族

          Nuked: Echoes of the Hiroshima Bomb in St. Louis 被ばく:セントルイスにおける広島原爆の負の遺産

          2023年1月18日 去年の12月1日に出版されたばかりの本。セントルイスには2度行っていて、地元の活動家(女性、お母さんたち)やがん患者さんなど、知っている方の話が出てきて、嬉しくなる、というのとはちょっと違うのですが、彼女たちのことがこの本をきっかけに知られるといいな、という思いでした。 ミズーリ州セントルイスは、シカゴのあるイリノイ州と州境を接しているのですが、シカゴからは南にまっすぐ車で5、6時間といったところでしょうか。あまり、隣って感じはしない州です(ウィスコ

          Nuked: Echoes of the Hiroshima Bomb in St. Louis 被ばく:セントルイスにおける広島原爆の負の遺産

          The Violin Conspiracy バイオリンをめぐる陰謀

          2023年1月9日 今年は「読みかけの本を(できるだけ)減らそう!」と言うヘタレな目標を掲げ、以前読んであと少しのところで、ほったらかしにしていた、この本を読了。 読み始めたきっかけは、よく聞いていたニューヨーク・タイムズの書評ポッドキャストだと思うのですが、まず、著者が実際にヴァイオリニストであること。そしてブラックであること。そしてポッドキャストのインタビューで、半フィクションというか、実際に著者に起こったことが元になっている、という話を聞いたからだったと思います。

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          Nomadland ノマドランド

          2023年1月6日 2011年に映画化されて多くの賞を受賞したノマドランド。フランシス・マクドーマンドは好きな俳優ですが、映画は見ていませんでした。気になったまま、近所の古本屋さんに入ってたまたま目にしたので即購入。 著者も書いているように、確かに車上で暮らす人たちのことは時折記事になっても、そうした人たちの暮らしの前後を追ったルポはありません。そこで、著者は彼らに密着し、考慮の末、自分も車上で暮らしてみるのです。 アメリカにはキッチンがあって簡易バス・トイレのついた車

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          2022年のベスト−本、映画、テレビ番組−続き

          2023年1月3日 すっかり忘れていました!2022年に見たテレビ番組で不思議と心に残った佳作があったことを! Tales from the Loopという作品。元々はスエーデンのSimon Stålenhagの作品だそうです。SFはどちらかというと苦手な分野。でも、そのフィルモグラフィーの美しさ(あるいは不気味さ?)に惹かれ、どんどんその世界観に入り込みました。 シカゴのあるアメリカ中西部の寂れた街のようでもあり、70年代のようでもあり、ソ連風な建物や職場環境だったり

          2022年のベスト−本、映画、テレビ番組−続き

          2022年のベスト−本、映画、テレビ番組

          2023年1月3日 とあるサイトから主に本の感想を移したのをきっかけに、2020年から読んできた本を見返すことができました。それにしても2022年はあんまり読んでないな〜。実は読みかけの本がゴロゴロあって、あとちょっと、というところで、放り投げているものも結構あって。。。性格が出るなぁ。 少ない中からですが、ここ数年でイチオシ、と思い、ことあるごとに人に薦めているのが、How to Hide an Empire。知り合いの編集者さんによると、とある出版社が版権をとって翻訳

          2022年のベスト−本、映画、テレビ番組

          Tokyo Ueno Station JR上野駅公園口

          2022年10月9日 今回、このブログを書くにあたり、初めて原題を確認。なるほど〜。これが英語では「東京上野駅」になっちゃったんですね。確かにそのまま英語にはしにくい邦題ですが、内容は上野公園を舞台としているといっても過言ではありません。でも、上野駅という地名も大切なのだろうと思います。ともあれ、日本語のカバーに比べ原色を使った明かるい感じの英語版。 日本文学を教えている日本語が母語でない友人が、日本語でこの本を読んで5年以上前に勧めてくれていました。今回ようやく、読み終

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          The Colony: Faith and Blood in a Promised Land 入植地:約束の地での信仰と血

          2022年8月7日 最近、モルモン教徒の話に囲まれています。タラ・ウエストオーバーの「Educated: A Memoir」も衝撃的で、いまだに良く思い返します。 また、ハンフォードの被曝者に関する本、The Hanford Plaintiffsを読み返していると、先住民に加え、モルモン教徒もかなり被害にあっていることがわかります。 そして、スパイダーマンを演じた(歴代のスパイダーマンの中で一番人気がないと言われていた😂)アンドリュー・ガーフィールドが主演した「Unde

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          How to Hide an Empire: A History of the Greater United States 帝国の隠し方:より広大なアメリカの歴史

          2022年2022年6月11日 著者、Daniel Immerwahrは、シカゴの北に隣接するエバンストン市(関西で言うと神戸に隣接する芦屋みたいな位置づけかも)にあるノースウエスタン大学の歴史教員。 副題のthe Greater United Statesは、掛け言葉になっていて、皮肉をこめて「より偉大な」という意味でのGreaterと、思っている以上にアメリカの覇権が広がっている、という意味での「より広大な」の意味とになっています。 この本は厳密な意味での学術書では

          How to Hide an Empire: A History of the Greater United States 帝国の隠し方:より広大なアメリカの歴史