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Nuked: Echoes of the Hiroshima Bomb in St. Louis 被ばく:セントルイスにおける広島原爆の負の遺産

2023年1月18日

去年の12月1日に出版されたばかりの本。セントルイスには2度行っていて、地元の活動家(女性、お母さんたち)やがん患者さんなど、知っている方の話が出てきて、嬉しくなる、というのとはちょっと違うのですが、彼女たちのことがこの本をきっかけに知られるといいな、という思いでした。

ミズーリ州セントルイスは、シカゴのあるイリノイ州と州境を接しているのですが、シカゴからは南にまっすぐ車で5、6時間といったところでしょうか。あまり、隣って感じはしない州です(ウィスコンシンとかミシガン、インディアナの方がシカゴの隣州という感じです。)

そして、このセントルイスは、実は広島と深い縁がある場所なのです。マンハッタン計画で知られているのは、ニューメキシコ州のロスアラモス、あるいはテネシー州のオークリッジ、ワシントン州のハンフォードかと思います。(とはいえ、私の学生でもハンフォードを知っている学生は少ないです。)しかし、セントルイスも広島原爆製造に欠かせない役割を果たしました。それは、当時ベルギー領だったコンゴから秘密裏に輸入されていたウランを精製する、という仕事。コロラドや、カナダからもウランは来ていたのですが、大量に爆弾製造に適したウランを摘出するのに、コンゴのウランは最適だったのです。

この精製を担ったのが、今も薬品会社として知られるマリンクロット社。当時、精製する際に出たウランのゴミをそのまま地表に積み上げていたり、それが雨などで近くの小川(コールドウォータークリーク)に流れ汚染が川下に広がったりなどしました。こうしたマンハッタン計画以来の汚染が公になったのは、2000年代。

この汚染については二つのドキュメンタリー映画ができていて、一つはThe Safe Saide of the Fence(フェンスのこちらの安全地域)。これは、主にこうした放射性物質を扱う現場で働いていた人たちのお話し。

もう一つはAtomic Homefront。これは主に母親を中心としたグループが汚染を指摘し、除染を要求し、闘うお話しです。

そして、後者のドキュメンタリーに出てくるのが、私も知り合わせてもらい、この本にも出てくる方々です。

広島原爆の後に頻発し、地域では稀ながんに罹患している人もいて、まさしく「負の遺産」(これは私の意訳ですが)です。

また、この本が秀逸なのは、セントルイスの都市の成り立ちが人種差別と密接に絡んでいて、汚染がそうした差別されている地域に集中しがちであることをデータなどを用いて示してくれているところです。

大学出版社から出ていますが、文章は平易で読みやすく、情報満載でおすすめです。

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