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Tokyo Ueno Station JR上野駅公園口

2022年10月9日

今回、このブログを書くにあたり、初めて原題を確認。なるほど〜。これが英語では「東京上野駅」になっちゃったんですね。確かにそのまま英語にはしにくい邦題ですが、内容は上野公園を舞台としているといっても過言ではありません。でも、上野駅という地名も大切なのだろうと思います。ともあれ、日本語のカバーに比べ原色を使った明かるい感じの英語版。

日本文学を教えている日本語が母語でない友人が、日本語でこの本を読んで5年以上前に勧めてくれていました。今回ようやく、読み終えることができました!

西日本出身の人間にはわかりにくいですが、上野駅は東京以北の人にとっては東京の玄関口(と聞いています)。色々なドラマがそこから始まる舞台なのでしょう。

主人公もやはり東北、福島の出身です。震災後、福島に移住した柳美里さんがつむぐ日本の歴史の一部としての、いわゆる「名もなき」一市民の話です。秀逸なのは、彼の人生が天皇家の歴史と重なっていることでしょう。

出稼ぎに出ざるを得ない地方で産まれ育った男は、ほとんど家にいることもままならない。辛いながらも「それが人生」といった諦念もあり、家族にお金を送る、ということが彼の生きがいであり希望であったのでしょう。しかし、息子が若くして亡くなってしまう。その傷をずっと抱えて主人公は生きていきます。

息子の死因は明らかにされていませんが、明仁氏と同じ年に産まれた主人公と、明仁氏の長男と同じ年に産まれた息子。この家族のパラレルが一層主人公の影を濃くします。

そのうち、妻にも先だたれます。他にも幾つかの死が彼を取り巻きます。救いのない話ではあるのですが、決してひとごとではない。

出稼ぎに出ざるを得ない、あるいはホームレスにならざるを得ない(主人公の場合は家族の不幸が原因でもあるのですが)社会構造ーーこれは出稼ぎやホームレスになることが選択肢にはなりえない天皇家とう存在により、より鋭利に浮かびあがりますーーと、人的努力ではどうにもならない不幸。もちろん、個人の不幸と社会構造とは密接に結びついているとはいえ。こうして「名もなき」一市民の一生が早送りのように紹介されます。

そして、そうした名も無い一市民により天皇家が支えられているように、福島という土地が東京を支えてきたことも、でも決してその支えは賞賛どころか認識すらされないことも、浮かび上がります。

落ち込んでしまいますが、これはフィクションなのですが、現実より現実味がある話といえます。こうした現実を見つめないでは、先に進めないのかもしれません。

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