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Nomadland ノマドランド

2023年1月6日

2011年に映画化されて多くの賞を受賞したノマドランド。フランシス・マクドーマンドは好きな俳優ですが、映画は見ていませんでした。気になったまま、近所の古本屋さんに入ってたまたま目にしたので即購入。

著者も書いているように、確かに車上で暮らす人たちのことは時折記事になっても、そうした人たちの暮らしの前後を追ったルポはありません。そこで、著者は彼らに密着し、考慮の末、自分も車上で暮らしてみるのです。

アメリカにはキッチンがあって簡易バス・トイレのついた車もありますが、そこまで充実した車で暮らしている人たちではありません。そこで、どの発動機が良いか、料理はどうやってするか、など情報交換が大切となってきます。そのために大きな集まりが開かれます。

一方では、現在の「カジノ資本主義」とも呼ばれる行き過ぎた拝金主義の社会に一石を投じる、あるいは馴染めない人たちが、こうした暮らしを選び取ります。しかし、確かに確固とした思想を基に車上暮らしを「選び取った」人たちも、実はそうせざるを得なかった事情があることがわかってきます。

そして、その事情とは、やはり金銭的な事情なのです。ですから、時々「ホームレス」と形容されることさえありますが、自分たちでは「ハウスレス」という認識のようです。つまり、どこまで本人の意志で選び取った生き方なのか、あるいは、この「カジノ資本主義」のもとで余儀なくされた生活スタイルなのか、その境は、おそらくとても曖昧なものなのでしょう。

そして、そういう人たちにわざわざターゲットを絞ってリクルートしているのは、なんとアマゾンなのです!アマゾンって本当に便利で私も使ってしまうのですが、便利な理由は品揃えと配達の速さでしょう。この広いアメリカでも、かなり迅速な配達です。これは、巨大な倉庫を持っていて、そこで働く人たちがいてこそ成り立っていることは、わかっていたつもりでしたが。。。

こうした人たちを可哀想という目線で書くのでもなく、資本主義の落ちこぼれとしてでもなく、自分たちのコミュニティを作り上げ、助け合う人々として著者は描きます。このあたりが映画では強調されていた、と、映画を見た同僚が教えてくれました。

でも、著者がほんの数行書いていることですが、こうしたコミュニティにいるのは、ほとんど白人層とのことでした。(映画では違ったようですが)。自分でも車上暮らしを経験した著者は、特に最初の晩に感じた、恐ろしさ、心細さをよくわかっています。少しの物音でもビクビクします。そんな著者だからこそ、普通に暮らしていても殺されてしまうマイノリティからは考えられない暮らし方であることに思い至ります。

これは、大事なポイントですが映画には出てこなかったようですし、本でも深くは掘り下げてありません。でも、「ホームレス」になっても「ハウスレス」として生きていけることが「白人の特権」であるというのは、何という複雑さかと思った次第です。

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