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There There まあまあ

カリフォルニア州北部サンフランシスコの郊外オークランドに住むトミー・オレンジは、シャイアンとアラパホの血をひく作家です。彼のデビュー作、There Thereは、2019年アメリカの本大賞(American Book Award)に選ばれ、ここシカゴでも2023年9月から12月期の「シカゴの一冊」(One Book, One Chicago)に選ばれました。

ずっと読みたいと思いながら機会を逸していて、ようやく読めたのですが、先住民の人たちのことを何も知らないと、またまた思い知らされました。オークランドを舞台にしたこの作品は様々な先住民の登場人物がいます。若いティーンエイジャーから70歳代(?)と思われる人たちまで。そして、彼らの人生が、悲しみと喜びとを交えて交錯していきます。

口語体で読みやすく、でも、現実的な会話で臨場感があります。驚いたのは、そのために、結構放送禁止用語的な言葉も多いのですが、それをシカゴの公立図書館が、シカゴの一冊として選んでいるところ。すごいなぁ。懐深い!

表題のThere Thereは、人を宥める時に使われる言葉で、日本語で言えば「まあ、まあ(落ち着いて)」という感じでしょうか。表題とは裏腹に、内容は宥めようのない問題ばかりです。そして、それがシステム的に貧困にさせられている、ブラックやヒスパニック系のコミュニティと、とても共通していること。

アジア系はモデル・マイノリティとして、システムが悪いんじゃない、お前たちの努力が足りないんだ、アジア系マイノリティを見ろ!というふうに、彼らの苦難を覆い隠し、現状維持(システムの非正義)を保つために使われることがよくあります。そういう風に括られて、自分が名誉白人気取りになっていないか、色々と考えさせられることが多いこの頃です。

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