見出し画像

Nuclear Family 核家族

韓国で生まれハワイに移住してきたジョーゼフ・ハンのデビュー作。題名の「核家族」とは皮肉が込められたもので、実際の物語は父方、母方の祖父母を含む物語で、舞台も韓国、北朝鮮、ハワイを中心に展開していきます。

デビュー作とはいえ、編集などの仕事に携わってきた著者の筆は本当に冴えています。その世界観も素晴らしい。フィクションとノンフィクションが上手に織り混ざり、しかも現実世界と虚構世界の混ざり具合も絶妙です。

主人公のジェイコブは大学を卒業し、アメリカ人でもない、韓国人でもない、といった(これはアジア系アメリカ人には深刻な問題ですが、おそらく他のマイノリティにも通じる問題と思われます)アイデンティティの問題に向き合うため、あるいはそこから逃げるために、韓国で英語を教える仕事に就きます。そこで、彼の祖父にあたる人物の亡霊(?)と出会い、彼の人生はドラマチックになっていきます。

ハワイではジェイコブの妹、グレースが両親が経営する韓国レストランを手伝いながら、日々を過ごしています。若さゆえ、途方もなく思える未来の可能性と同時に、実際には閉塞感溢れる島(ハワイ)の暮らしに辟易しています。ジェイコブが韓国へ行ったのがエスケープだとしたら、グレースのエスケープはマリファナです。常にハイになることで途方もなさと閉塞感から身を守っているのです。そしてハワイ側でも祖父母との交流があります。

この小説が秀逸なのは、こうした若者の葛藤で終わるだけでなく、それがもっと大きな地政学的な問題とちゃんと噛み合っているところです。例えば、グレースの両親の店で働いている男性はグアムの出身で(グアムはこの本では通常のGuamという綴りではなくGuåhanと表記されています。

そして、ハワイのアジア系が中国・韓国・日本だけでなくフィリピン系もいますし、グアムを始めとする太平洋諸島からの移民も多く、その複雑な関係にもちゃんと言及されています。例えば、とある韓国系のお店はサモア系を雇うことが多いので、チャモロ人(グアムを含む北マリアナ諸島に多い先住民族)を見て驚いた、とかそういった描写です。

またグアムは大統領選挙では投票権がないのに兵士には慣れる、とか。ハワイの先住民族の問題、移民の問題にもきちんと触れつつ、ジェイコブのいる韓国では、38度線が大きな意味を持ってきます。

しっかりと植民地の問題、アメリカの覇権の問題に触れつつも、ユーモアがあり、黒塗りの箇所があるなど挑戦してるところもあり、すごい作家さんだと思います。次回作が楽しみです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?