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詩 『ことば』

詩 『ことば』

大きく口をひらいて「 a 」

くちびるを横にひっぱって「 i 」

つづけて発音して「 a i 」



この二つの母音のつらなりの意味を

分かっているわけじゃないんです

でも

ずっと探しているんです

 . . .

わたしはいつでも真剣で

おかしいくらい真剣で

飢えているのが分かるでしょう

だから

絶対に奪われないものを探しては

スーパーの袋に

詰めこめるだけ詰めこ

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詩 『 こえ 』

詩 『 こえ 』

あなたの声をきかせて

そのチェロのような声を

森の奥からながれてくる 甘美な響きにみちびかれ

ニスで磨きあげられた

木目の小路をたどるから



なだらかな丘をのぼれば

むかいあう f (フォルテ)のみずうみ

水面にうつる月かげはビブラートにふるえ

トレモロの波が足元によせる



あなたはA(アー)の音で笑い

D(デー)の音で語り

G(ゲー)の音で

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詩 『波紋』

詩 『波紋』

座布団の下に 魔法陣をかくし

畳に落ちたゴミをひろうふりをして

小さく呪文をとなえる

そうして呼び出す魔神は

いつもわたしに同じセリフをくり返す

. . .

その床の下に 一階があると思っているのか

この天井の上に 三階があると思っているのか

頭の上に天国があると思っているのか

足の下に地獄があると思っているのか

いつから おまえは

天国と地獄の間をつなぐ

高層住宅に住んで

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『 春 』

『 春 』

あなたと わたし

出会った角度は30°

このまま鋭く突き進もうと思っていたのに

気づけば あなたの隣には

心の広い150°の人がいた

二人並べば180°

お似合いとは まさにこのこと

・・・

街を歩いていると

映画館の看板から

インディー・ジョーンズが笑いかける

いったい今はいつだっけ?

塗料のにおいのする夢でいい

ペンキのハケで描いた夢でいい

こちらを見つめて離さない

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詩 『 遙かなる友人 』

詩 『 遙かなる友人 』

他の星からきたという人に 会いました

喫茶店の奥の席にすわり

珈琲カップをもつ仕草など とても自然なものだから

彼が異星の人だなんて

まわりの人にはきっと 分からなかったと思います

.

「故郷の星を離れてから

いつのまにか ずいぶん時間がたってしまいました

一人っきりで宇宙空間を彷徨っていると

時間の感覚が よく分からなくなってしまうんです 」

.

珈琲のサイフォンが コポコ

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詩 『拳中(こぶしのなかに)』

詩 『拳中(こぶしのなかに)』

日蝕の空は

見たこともない色をしていた

太陽の七色は

灰色の奥に影を潜めたままうごめき

時ならぬ夕暮れに驚き騒ぐ

山のカラスとおなじ気持ちにさせる色だった



不安はいつだって白い糸のような根をはり

まるで非常食のような実を地中に育てる

寂しくなったら この実をお食べ と囁く声には

確かに聞きおぼえがある

そう思うのは 気のせいだろうか

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詩 『H₂O+Na』

詩 『H₂O+Na』

なみだの分子構造を教えてください

涙には

悲しみ以外の別解があることを知るために

酸素に手が二本あるのなら

わたしの内には

何兆もの手があることを知るために

.

世の中なんて

しょせん意味でしばられているじゃない

冷静なあなたはそう言うけれど

世の中を縛るロープの先は

遠く銀河の果てまでのびていて

無限の空中ブランコみたいに

大きく揺れるものなのよ

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詩 『百合』

詩 『百合』

百合の花粉をとる

全部とる

ようやく時満ちて花開き

これからという時に

いよいよという時に

可能性を摘む

全て摘む

あなたは美しくなければならないのだよ

花粉などで汚されてはいけない

いつまでも白く

いつまでも清らかに

長く伸びた雌しべの先がしっとりと露に濡れ

受け入れの準備がみごとに整っても

あなたは決して穢されてはならない

清らかなまま

いつまでも僕の側で香ってお

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詩 『 手紙 』

詩 『 手紙 』

突然 飛びこんできた小鳥が

あんまり意外な告白をするので

わたしは二度

聞きかえしてしまった

くちばしの間の

野菊の花びらのような舌からこぼれ落ちる
言葉が

みぞおちのあたりにいつもある暗い隙間に
あたたかく おさまっていくとは

思ってもみなかった

.

骨にきざまれた過去が

何度も何度も

皮膚に浮かびあがってくる

そのたびに思う

もっと分かってほしいだけ

それが唯一

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詩 『 嘘 』

詩 『 嘘 』

甘い

なんて甘い

優しい

なんて優しい

体がとろけてしまいそうだ

そう こうして欲しかった

ずっとこうして欲しかったんだよ

やっと分かってくれたんだね

家族も友達も恋人も

誰も分かってくれなかった

本当の僕のことを

僕の頭上に紫の光が輝いているのが

君には見えるんだね

初めてだよ そんな人は

運命の人だ 君は

ようやく出会えた喜びで

僕の胸は今
張り裂けんばかりに高

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