詩 『波紋』
座布団の下に 魔法陣をかくし
畳に落ちたゴミをひろうふりをして
小さく呪文をとなえる
そうして呼び出す魔神は
いつもわたしに同じセリフをくり返す
. . .
その床の下に 一階があると思っているのか
この天井の上に 三階があると思っているのか
頭の上に天国があると思っているのか
足の下に地獄があると思っているのか
いつから おまえは
天国と地獄の間をつなぐ
高層住宅に住んでいるんだ
. . .
わたしは裁ちバサミをつかんで立ち上がり
壁をよじ登り
壁と壁のつなぎ目を切り裂き
壁と天井のつなぎ目を切り裂き
体重の全てをかけて壁を押す
押す
. . .
目の前に 突如現れたのは
水平の世界
そこには
永遠に出会えないと思っていた人が
立っていた
わたしと同じように
倒れた壁を踏んづけて
立っていた
. . .
絶え間なく湧き出す水に
地面はしっとりと覆われて
倒れた壁は早くも苔むしはじめる
垂直から解き放たれた
心地よさよ
それを分かち合いたくて
視線を交わす私たち
二人の間に
言葉は まだないけれど
何億光年も昔から
その人を ずっと待っていたと分かるのは
何故だろう
もう 決して離ればなれになることはないと
知っているのは 何故だろう
. . .
今
二人の波紋は
繋がっている
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