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高島屋のエレベーターでみた、ぎこちなくてきれいな「かけ捨てのやさしさ」
デパートの上層にある雑貨フロアが好きでよく行く。
先週末も日本橋高島屋本館の7階をふらふら見ていて、例によって何も買わず、ゆっくりエスカレーターで降りていった。
僕のだいぶ前方に、若い親子が同じようにエスカレーターで降りていっていた。先頭のお父さんは、ショートカットの3歳くらいの女の子をおんぶしている。女の子はお父さんの腕の中でウトウトしている。
そして2メートルくらい間を空けて後ろに、大きなトートバックを持ったお母さんがついてきていた。
2フロアくらい降りたときに、20代くらいのお兄さんがエスカレーターに合流してきた。お兄さんはタイミング的にお父さんとお母さんのちょうど間におさまり、意図せず家族を分断するかたちになった。
その並びでそのまま数フロア降りていく。
ふと、女の子が「ママぁ?」と声を出した。すぐ後ろにいたお母さんが見えなくなって不安になったのだろう。
声を聞いたお母さんはすぐに「はあ〜い」と明るく返事をして、ちゃんとついてきていることを知らせる。
その次のフロアでお兄さんはエスカレーターから離れた。それでお母さんはお兄さんを追い越して、親子はぶじ元の並びに戻る。
さてお兄さん、近くのフロア案内をチラッと見ただけですぐにエスカレーターの方に戻ってきて、後ろから降りてきていた僕のすぐ目の前に入ってきた。
そのフロアに用事があったわけじゃないのか。行動の意味はすぐにぴんときた。
親子の並びを元に戻すためだ。
女の子の声で自分が親子の間に入ったことに気づいたお兄さんは、お母さんを先に行かせるために興味のないフロアで一瞬立ち止まったのだ。
それを、僕だけが後ろから見ていた。
もちろんそんなこと、お兄さんは知らない。親子も知らない。
これって、当たり前の配慮なのだろうか。
そうは思わなかった。
ありがとうも言われないし、そもそも気付かれもしない。決して戻って来ることはない"かけ捨てのやさしさ"。
そんなことを考えながらお兄さんの背中を見ていると、鼻腔の奥がほわんと暖かくなった。
すごくきれいだな、と思った。
ちい〜さく瞬いた程度、だけどもすごくきれいな優しさを、うしろから見届けた。
お兄さんの顔は見えない。でも「この階に用事があるんです」という演技は、ちょっとぎこちなかった。
失礼な憶測だけど、器用な人ではない気がする。
でもこういう人がちゃんと報われてほしいな、と思った。
自分の優しさを周囲に伝えるのが上手い人はいる。反対に、すごく下手な人もいると思う。
だから、みんなから「あの人は優しい」と言われている人が一番優しいかというと、そうでもないかもしれない。
このお兄さんのように、誰にも気付かれない優しさを実はいつも振りまいていて、でもそもそも「優しい人」であることすら気付かれていない人もいると思う。
そういう人は自分の優しさを、自分が生きやすくするために使えなかったりする。あるいは、使うことを望んでいなかったり。
それでも、誰かが注意深く気付いて、そしてちゃんとその優しさが本人に戻っていくべきだと思う。
そんな世の中であれば良いな。
お兄さんの知り合いに、「この人信じられないくらい優しい人ですよ。気付いてますか?!」って語気強めに伝えたい。
いや、もうみんな知っているかもしれないけど。むしろそっちの方がいいんだけれど。
些細なことだけど、
ちょっと心がキラキラ水色になった週末の日本橋でした。
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