小林ブルー美由起

詩を書きたい人 横浜の横浜っぽくないとこ在住

小林ブルー美由起

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最近の記事

《詩》 泣き声

電車のなかで突然赤ん坊が泣き始めた 母親はあたふたと抱き上げたり ぬいぐるみを動かしたりしたが 泣き声はますます高く大きくなる 人は泣きながら生まれてくる こんな世界に生まれてきたくはなかったと 嫌だ嫌だと泣き叫びながら生まれてくる だからわたしたちは 泣きやむようにあやす 泣かせない世界にするために 世界をあやす だから 小さな人たちよ もっと泣いておくれ どこが居心地良くないか どこが痛いか 泣いて教えておくれ どんなに遠くにいても聞こえるように わたしたちの心の鼓膜を

    • 《詩》 煙

      紫の煙と緑の煙 どっちが好き? ずっと紫の煙ばっかり吸ってきた ママもパパも紫色だった 髪の毛から爪先まで めまいがするほどの紫さ 初めて見た緑の煙 キラキラパチパチ光ってた 鼻から吸うんじゃないよ 毛穴から吸い込むのさ 甘くて苦くて ちょっとしびれる 匂いに色がつく 背中にエメラルドがはえてくる 少しだけ未来が見える 君と体がとけあう 秘密の煙 緑の煙 目玉を銀色に光らせる 魔法の煙だよ キスをしたらおしまい またいつもの紫さ 背中を確かめても エメラルドはもう消えた

      • 空に海がある日 雲だけが眠っている 男の背中に乗って 海を渡っている 翡翠色の柔らかい海に ぽつんと揺らいでいる 男の肩甲骨はゆっくりと回り 僧帽筋は滑らかに伸縮する 浮き沈みしながら わたしのために波打ち 皮膚は熱く ほんのり桜色をして この背中も海だ 物を言わぬ小さな海だ 落ちないように 小さな手でしっかり肩を掴む あの雲まで あの雲まで行って わたしの声も波になる わたしを乗せた海は歩けない 歩けないから泳いでいるのだ わたしの海で 遠い海で 桜色の寂しい海は わたしを

        • 《詩》夢

          誰の夢かわからないまま 大事にお預かりしています 持ち主にお返ししなくてはなりませんと たくさんの小さな夢の欠片が並べられている 手にとると どれも懐かしく煌めいて ひっくり返したり 光にかざしたり いつまでも夢の時間を過ごした ひとりでおはじきを眺めていたことや あの子と交互に万華鏡を覗いたことを思い出した どれがわたしの夢かは分からないけれど どの欠片も好きだと思った 抉れた傷に ひんやり馴染んでゆくのなら 誰の夢でもいい そこで光ってほしいと思った わたしの夢になってほ

          《詩》血

          血が立つ 女の血が立っている 花でもガーネットでもなく 赤く巡り流れる血が 鐘の音のように 血そのものとして立っている 血は目となり 耳となり 痙攣する爪先となり ドクドクと脈打つ 波となり立ち上がり 流れ落ち 広がり 赤い水平線は 焼けた夕日をとぷんと飲み込む 血は酔う 夢を見たまま 酩酊したまま 血が立っている ゆらゆらと 確かに血が立っている 血が見つめている 時を穿つように 部屋の隅で 路傍で 橋上で 長い長い影を伴い 血は立つ 女の血が

          《詩》春のマスク

          マスク着用が個人の判断に委ねられた初めての春 おずおずとマスクを顔から剥がし 春の粒子を直接吸い込むと 肺があわてて点滅し始める まだ体は冬のままなのだ 思考も凍ったまま 春が顔にはりつく 春に晒された顔は 不安に歪み強張る マスクを着けるべきか 外すべきか 春の空気にはどこにも書かれていない 手錠のように手首にマスクをくくりつけ 一体どこへ連行されるのだろう 行きつ戻りつする冬に 問いかけることも出来ない マスクを着けても外しても 怯えたままだ 不安や不満をマスクでしっかり

          《詩》春のマスク

          《詩》二月の海

          二月の海を見に行った あなたは冬が好きだと言った 寒いのも冷たいのも好きだと言った 冬の砂浜は思ったよりも冷えていて 指先がさくりさくりと怯えたように巻き貝を見つけ出した そっとあなたの手のひらの上で 欠けた巻き貝は内部をさらした 耳介をなぞるように あなたの指は螺旋を降りていった あっという間に喘息の胸に包まれて わたしたちは海風にさらされる一本の塩柱になった あなたが煙草を吸うたびに そして咳をするたびに 肺がオパールのきらめきに鳴った わたしが悲しみを吸うように あなた

          《詩》二月の海

          ありがとうございました

          今年はやりたいことやアイデアがたくさん湧いてきた年でした。その半分も具現化できませんでしたが。 noteを始めたのも今年でしたが、あまり活用できずにいます。エッセイとか文章が書けるようになりたくて練習したいなとは思っていますがなかなか上手くいきませんね。 始めた頃は長めの詩の保管場所にする予定でしたが、Twitter(現X)に載せるために140字にまとめる癖がついてしまって、30行くらいの詩はあまり書けませんでした。ある程度長さの詩が書けるようになりたいです。 今年でき

          ありがとうございました

          詩斗燐 クリスマス号

          ネットプリントでポエム通信を2回ほど配布しましたが、今回はクリスマス号をPDFで配布します。 SNSでの既出作品3篇、未発表が2篇です。 ↑こんな感じです↑ ↓こちらからダウンロードできます↓ B4サイズ、4頁の折本です。 グレーの線を目安に縦に山折、飾り線を目安に山折にしてください。 後日ネプリでも配信します。 ーー追記ーー ネットプリントの配信始まりました。 ↓↓↓↓

          詩斗燐 クリスマス号

          《詩》待つ

          待つ あなたの言葉を待っている あなたの声を待っている あなたの声が戻ってくるのを ただただ待ちわびている あなたに心を返したい それまで この心を透明にさせたい 母が林檎を剥く姿は いつも祈りに似ていた 同じように 朝の光を迎え入れるために カーテンを開けよう その手の動きを 動く腕を そこに宿っている同じ光を わたしのように受け入れる あなたの声を受け入れられるほど 静かでありたい

          《詩》あちら

          あちらから こちらにやって来て やがてあちらへ戻ってゆく わたしたち あちらから来たばかりの人と あちらへもうすぐ行く人の言葉や仕草は なんだかよく分からない 分からないまま こちらのルールに押し込める あちらから こちらにやって来て やがてあちらへ戻ってゆく わたしたち あちらのことは何も知らない あちらへ帰ってゆくのに

          《詩》 燃える

          海が燃えるのを見ていた 赤く燃えるのを 夜は緑色に冷たく燃えるのを あなたの投げ捨てた煙草の火が 海を燃やした 顔の無いあなた 胸から胸へ響く声と 煙草の匂いだけが 想い出を取り巻いて さざ波のように わたしの身体中の産毛を燃やした わたしの全ての涙が燃え尽きるまでは あなたの煙草の匂いを 纏っていられる 宇宙から見たら 星のように見えるだろうか わたしはいつまでも泣いていたい

          《詩》 夕焼けの詩

          燃える色 こんなに美しい夕焼けのなかで 世界がゆるやかにゆがんでいくのだ きしんでくずれて こわれてゆく ばらばらになる音が ノイズミュージックへと変換される前に まっさらな耳で聞きとろうと 君は 刻々と変わってゆく夕焼けの色を 見つめている ふるえて まるで一人きりのように ぼくにふれることもなく 時代の炎を 世界が燃え落ちてゆくのを ただ見つめている ぼくの手のなかにも 熱くむしゃぶるいした夕焼けが 嵐を予言して 握られているのに

          《詩》 夕焼けの詩

          《詩》夏の詩

          季節の風 日傘が翻って みずうみに落ちる それが夏の始まりの合図 波紋が広がるように 気温も湿度も 膨らんでゆく 昼も夜も スカートも 窓も 天気雨も 弾けるほどに膨らんで 乱反射している 唐突に夏が眩暈を起こして倒れる わたしも半透明な夏の肉体のなかで ゆっくりとつまづく わたしの手から日傘が落ちて 風に連れられて 夏の端へ転がってゆく カナカナカナと 夏が途切れる

          《詩》のぞみ

          少しでもあなたにちかづきたい 髪をかきあげたとき どんなふうに髪が揺れ動くのか 「雨」とあなたが発音するとき どんなふうに唇が動くのか どんなふうに言葉はひびくのか 空を見つめているとき どんなふうに瞳が光るのか 見ていたい あなたの羽織るシャツはうすい水色 みんなが待っている夜明けの色 どうぞふれさせてください 妖精が言葉を運んでくる わたしの脱け殻のような 破片を拾いあつめて もう一度わたしをつくる すぐに壊れてバラバラになってしまうだろう

          《詩》

          夏があった 燃やされてゆくのでした あらゆる夏の緑が 夏の命が 夏を隅々まで渡る水までもが 燃え落ちて 灰となり 崩れてゆくのでした 夏が白くなり 死は透明になり 愛する四季は 行き場を失うのでした 静かな祈りに似た星が ついに 燃え尽きました 燃やされたのでしょうか 燃やしたのでしょうか 燃えたのでしょうか 目の奥に残っていた炎の揺らめきさえも 消え去りました