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《詩》 泣き声

電車のなかで突然赤ん坊が泣き始めた
母親はあたふたと抱き上げたり
ぬいぐるみを動かしたりしたが
泣き声はますます高く大きくなる

人は泣きながら生まれてくる
こんな世界に生まれてきたくはなかったと
嫌だ嫌だと泣き叫びながら生まれてくる
だからわたしたちは
泣きやむようにあやす
泣かせない世界にするために
世界をあやす
だから
小さな人たちよ
もっと泣いておくれ
どこが居心地良くないか
どこが痛いか
泣いて教えておくれ
どんなに遠くにいても聞こえるように
わたしたちの心の鼓膜をふるわせておくれ
愛を急き立てておくれ
もっと大きな声で
もっともっと大きな声で
わたしたち
まだ見つけられない

電車が地上へ上り
日差しの筋が幾本も
神様の指のように
車内へ差し込んだ
あなたを探すように
あなたを撫でるように