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空に海がある日
雲だけが眠っている
男の背中に乗って
海を渡っている
翡翠色の柔らかい海に
ぽつんと揺らいでいる
男の肩甲骨はゆっくりと回り
僧帽筋は滑らかに伸縮する
浮き沈みしながら
わたしのために波打ち
皮膚は熱く
ほんのり桜色をして
この背中も海だ
物を言わぬ小さな海だ
落ちないように
小さな手でしっかり肩を掴む
あの雲まで
あの雲まで行って
わたしの声も波になる
わたしを乗せた海は歩けない
歩けないから泳いでいるのだ
わたしの海で
遠い海で
桜色の寂しい海は
わたしを乗せて
ゆったり空を渡ってゆく
小さな海よ