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あなたの顔の素敵なところ

最も美しい化粧は情熱だが、化粧品のほうが簡単に手に入る

イヴ・サン=ローランの若干の皮肉の込もった言葉は真実で、その証として、私はある女性の顔と彼女の劇的な変化を思い出します。

それは、メイクアップ・アーティストの友人に誘われ、彼女の主催する講座に参加した時のことです。
私がさほどメイクに興味がないのを知りつつ、友人が私を誘ったのは、講座の内容を受講者としてどう感じるか忌憚ない意見を聞かせてほしい、というのが理由でした。

人からメイクの仕方を教わったこともないし、面白そうだから喜んで、と答えると、メイクのお勉強っていうよりは、可能性を探って遊ぶ感じ、と友人は笑って答えました。


当日になり、それが本当だとわかりました。
参加者たちは4人ずつのグループで目移りするようなメイク用品を自由に試し、友人やアシスタントたちはそれを見守り、必要に応じて手を貸す役割です。

決められていたテーマはひとつだけで、顔全体にまんべんなくメイクを施すのではなく、自分の顔の決め手となるパーツを見つけること。

人の顔には必ず全体の印象の決め手となるポイントがあり、まずはそこを重点的に押さえること。
そうすれば、自分を上手く演出することが可能だ、と最初に説明がありました。


これは、ずっと以前に劇団関係の方から聞いた理論と同じです。
その方によると、俳優さんが舞台に上がる際、顔の4つのパーツのうちのどこか一箇所を際立たせるのが重要で、その4つは眉、目、頬、唇だといいます。

人によってどこを最も強調すべきかは違い、ある人は整った眉でより端正に見え、ある人はアイメイクで化け、ある人は頬のチークで若返り、ある人は似合うリップで美女になる、といった具合です。

それは一般のメイクでも応用でき、自分の顔の変身パーツを見つける方法は、じつは簡単。
お化粧をしていない状態で、一ヶ所ずつ、そこだけをしっかりめにメイクします。
鏡の中で急に顔つきが変わったように見えたなら、それが正解。

後は、そこさえ気を入れてメイクすれば、自分の顔を最も良く見せられる、というお話でした。


友人が講座で採用していたのも似た考えであり、自分にとっての見せパーツを際立たせ、他は抜け感が出るくらいにとどめておくべし、というものです。

これはまったく賛成できるやり方ですし、この日はじめてお会いした人たちともすっかり打ち解け、あれこれと試しつつ自分の顔で遊ぶのは、とても楽しい時間でした。

その場に参加する最大の利点も、プロ仕様の本格的なメイク道具やコスメが使い放題、という以上に、なお素晴らしいのは、他の方の顔を見、意見が聞けることです。
家で一人で試していても、それはそれで気がねがないのですが、自分の感覚以外に頼れるものがありません。

けれど同じ場に利害関係のない同好の士がいると、その人たちと意見しあったり、貴重なアドバイスだってもらえます。

いくら自分について熟知しており、正しい判断ができる自信があっても、人の目から見ると、別の良いものが発見されることだってあるのです。


たとえば私と同じテーブルだった、可愛らしい雰囲気の女性は、年齢相応に見えないことが悩みのため、いつも大人っぽいメイクを試してきたそうです。
けれどこの日、彼女は初めて明るい色のチークを使ってみる、という小さな冒険に踏み切りました。

それまでのダークな色合いのチークを頬骨に沿ってつけるのをやめ、オレンジ色をふんわりと楕円にぼかした彼女の顔に、歓声が上がりました。

「すごく素敵!」
「これから毎日、絶対にそれをつけて」
心から称賛せずにはいられないくらい、新しいメイクは彼女によく似合っていました。

「ありがとう。自分では絶対にこの色は選びませんでした」
少し照れながら鏡を見つめ、私たちや、講師にお礼を言いながら、彼女が自分の新しい姿を気に入っているのがわかります。
 
どれほど自信ありげに見えたとしても、完全に心の内まで自信に満ちているという人はそういません。
だからやはり、外側からの励ましは力になります。

あらためてそんなことを認識し、友人にも素晴らしい講座だったと伝えました。
私が出席したのはその一回きりですが、それからも更に回を重ねているため、さらなる進化を遂げて皆を喜ばせていることでしょう。


現代の悲劇は、あまりに視覚中心であり、外見にこだわることである

作家のジェサミン・ウェストがそう看破してから半世紀以上の時間が流れ、その傾向はますます強くなっています。

見た目に振り回され、そこだけに過剰にこだわるのは考えものですが、外の世界と気持ちよく向き合うために、装いや身だしなみが役立つのは確かです。

それならば、自分なりの魅力を理解し、それを自然に活かすことは、日々をより楽しいものにするに違いありません。

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