見出し画像

フルニトラゼパムへの異常な愛情

またはロヒプノールは如何にして販売するのを止めてサイレースになったか。

舌が青くなる睡眠薬、それも鮮やかな水色に染まる睡眠薬といえばサイレース。
最近では後発品のフルニトラゼパムも次々と剤形変更され、そのほとんどに青色1号が添加されています。

かつて、フルニトラゼパムの先発品にはロシュ社のロヒプノールも肩を並べていました。
ロヒプノールは銅ロヒ、白ロヒ、青ロヒと、頭に色の名前を冠して呼ばれていた過去があります。
そのためか、個人的にフルニトラゼパムはどうにも色と縁のある睡眠薬という印象が強く残っています。

サイレース、ロヒプノール、フルニトラゼパムを懐古していこうと思います。

サイレースとは

ベンゾジアゼピン系中時間型睡眠導入剤

一般名:フルニトラゼパム(英:Flunitrazepam)
商品名:サイレース(ロヒプノール)
剤形:1mg錠2mg錠

Tmax:約1時間
作用時間:約6~8時間
T1/2:約20時間

適応:不眠症(0.5mg~2mg)
   麻酔前投与(0.5mg~2mg)

副作用:依存性、刺激興奮、錯乱、意識障害、一過性前向性健忘(頻度不明)、ふらつき・眠気(1%以上)、頭痛(0.1~1%未満)、他

ベンゾジアゼピン系最強と名高い睡眠薬

サイレースは中時間作用型のベンゾジアゼピン系睡眠導入剤です。
ジアゼパム等価換算表にしてジアゼパム(セルシン・ホリゾン)10倍の力価を持ち、催眠作用はもちろんのこと、抗不安作用や筋弛緩作用に至るまで、ベンゾジアゼピン系薬剤の中でも最も強い効果があると言われています。
麻薬及び向精神薬取締法では多くのベンゾジアゼピン系薬物が第3種である中、フルニトラゼパムは第2種に該当します。
第1種にはメチルフェニデート(リタリン・コンサータ)などが該当し、第2種もフルニトラゼパム以外はバルビツール酸系がほとんどです。
一部の欧米諸国では持ち込み自体が禁止されており、渡航時には医師の証明書を要するなど厳重な規制が敷かれています。

”ロヒプノール”という名前が持つ歴史

画像1

現在は販売中止となった"白ロヒ"と呼ばれていた頃のロヒプノール(フルニトラゼパム)2mg錠。
"ROCHE 172"という刻印が見て取れます。

かつてロヒプノールは、スイスのロシュ社が開発・販売していました。
1955年、ロシュ社に籍を置いていたレオ・スターンバックによって最初のベンゾジアゼピン系抗不安薬であるクロルジアゼポキシド(コントール・バランス)が開発されます。
その後、ジアゼパム(セルシン・ホリゾン)、ニトラゼパム(ベンザリン)、メダゼパム(レスミット)、クロナゼパム(リボトリール・ランドセン)、ブロマゼパム(レキソタン・セニラン)と、現在でも主要とされているベンゾジアゼピン系物質の多くがロシュ社のスターンバックにより開発されました。

ブロマゼパムに次いで1975年に登場したのが、フルニトラゼパム、ロヒプノールです。
ロシュ社(Roche)の睡眠薬(Hypnotics)であるため、ロヒプノールと名付けられました。
歴史を顧みるに、ロヒプノールという名前の方が残されるべきであったと思います。

紫シートかつ無色の素錠だった”白ロヒ”以前には、メタリックな銅色のシートだったことから”銅ロヒ”と呼ばれていました。
残念ながらというべきか、喜ばしいことにというべきか、銅ロヒの時代とはご縁がありません。

”白ロヒ”から”青ロヒ”へ

画像2

2015年、ロヒプノールが剤形変更し”青ロヒ”の時代が到来します。
フィルムコーティングが施され、青色1号が添加され、錠剤からは”ROCHE"の刻印が消えました。

画像3

剤形変更時には、小さなお知らせの紙が薬局で添付されました。
シートからも”ROCHE”の表記が消えたのはこのときです。
こうして、ロヒプノールの名前だけにロシュ社の面影が残りました。

なぜこのような剤形変更がなされたかは御存知の通り、アルコールに混入して悪用される事件が起こったからです。
アルコールと併用すると健忘を起こしやすく、同時に白ロヒは無味無臭かつ無色と3拍子揃っていたため、青色1号を添加して対策が取られました。
ジェネリック医薬品のフルニトラゼパムも徐々に剤形変更し、現在ではもう”白ロヒ”の姿はありません。

白ロヒから青ロヒへ変更して困ったのは、スニッフすると鼻が青くなること、乳鉢ですりつぶすときフィルムがべたつくことなど枚挙に暇がないほど。
一方で少しメンソール感が増し、味は美味しくなったような気がします。

かくして、ロヒプノールはインスタ映えもばっちりな青い睡眠薬になったのでした。

”ロヒプノール”から”サイレース”へ

画像4

現在処方されているジェネリックのフルニトラゼパム2mg錠。
先発品であるサイレースと非常に近いデザインのシートです。

2018年、いよいよロヒプノールは販売中止を迎えます。
サイレースに比べ圧倒的な知名度と販売数を誇っていたにも関わらず、ロヒプノールが先発品から削られてしまいました。
現在流通しているジェネリック医薬品のフルニトラゼパムも、多くが銀色シートに褐色印刷のサイレースデザインです。


画像5

こちらはフルニトラゼパム1mg錠。
ロヒプノール、サイレース共に1mg錠は緑色のシートでした。
ジェネリックのフルニトラゼパム1mg錠も、ほとんど緑色のシートが採用されています。

ジェネリック医薬品が先発品と近い配色、デザインを採用するのは、薬局や患者の取り違えを防ぐなど利便性に配慮してのことだと思います。
それでもなお、あのきれいな紫シートのロヒプノールが無くなってしまったことを悔やまずにはいられません。

フルニトラゼパム、またの名を”ルーフィ”

日本でフルニトラゼパムを白ロヒ、青ロヒというように、英語圏では「ルーフィ(Roofie)」という隠語で親しまれています。
これも当然ながらロヒプノール(Rohypnol)に由来します。
海外でもダウナー系レクリエーションドラッグとして人気が高く、他にもアッパー系ドラッグの落としとしても利用されているとか。
どんな呼ばれ方をしようと、どこの国であろうと、これ以上ロヒプノールが悪用され、汚名を着せられることのないよう願うばかりです。

様々な色を渡り歩き、ロヒプノールが消え、サイレースのみになろうとベンゾジアゼピン最強の座を譲らないフルニトラゼパム。
もし販売中止となれば、これより眠れる薬はもはやメジャートランキライザーやバルビツールを他にありません。
これらに比べればまだベンゾジアゼピンの方が副作用も少なく、安全性の高いお薬です。

お楽しみはほどほどに、決して人に迷惑をかけず、安心安全な範囲で、と自戒も込めて。

最後まで読んでいただきありがとうございます。 よろしければスキ、フォローもよろしくお願いします!