ユーザーが答えを知っているわけではない|#BYARD開発記 07
第7回は、ユーザーへのヒアリングにどのような心構えで臨んだのか、「解決すべきユーザーの真の課題」の設定がヒアリングをし直す前と後でどのように変わったのかを振り返ります。
ユーザーヒアリングの徹底的なやり直し
新しい製品やサービスを開発する際には、皆さんもいろいろな市場調査を行っていると思います。しかし調査結果の中に明確な答えが存在するわけではなく、結果をどう解釈し何をプロダクトに反映させるかは自分で決めなければならないところに難しさがあります。
SmartHRの当時のCEO・宮田さんとの面談で、事業の構想について最初にプレゼンした際、いただいたフィードバックは
…というものでした。これをきっかけに当初持っていたプロダクトの構想や機能はいったん捨て、半年ほどかけてユーザーへのヒアリングを徹底的に行い「ユーザーの真の課題は何か、マーケットで求められているものは何か」を見つめ直すことになりました。
(半年もの時間をかけることができたのは、第5話でご紹介した「強くてニューゲーム」のおかげでもあります。)
心構え① ユーザーが語っている課題が、本質的かどうかは分からない
ヒアリングを行うとユーザーからはさまざまな意見が出てきます。しかしユーザーが必ずしも「本当に解決すべき課題の本質」を捉えられているとは限りません。
このことを表した、アメリカの自動車王・フォードの格言があります。
まだ自動車が普及していない時代、一般的な交通・運搬手段といえば「馬車」でした。馬車しかないのが当たり前の人たちにとって自動車のことなど想像もつきません。「もっと速く走る馬が欲しい」と言う人はいても「自動車が欲しい」と言う人は誰もいなかったのです。
ユーザーの口から言葉として発せられる表面的なニーズにとらわれず、「より速く移動や運搬をしたい」という本質的なニーズは自分で見つけ出すという心構えが必要です。
心構え② 身銭を切らない意見は当てにならない
実際に自分がお金を払っていないものや、自分の損得に影響がないものについて尋ねても、本当の意見は出てきません。
「リーン・スタートアップ」や「STARTUP」、「NO FLOP!」など何冊か参考に読みましたが、どの本にも市場調査で高評価だったにもかかわらず、いざリリースしたらまったく売れなかった事例が登場します。
「いいですね!ぜひ買いたい!」とヒアリングでは答えたけど、実際に自分がお金を払って買うかと言ったらそうでもない——どう答えようが責任も損得もないのであれば、当たり障りのない意見を言ってしまうのが人間なのだと心構えしなければなりません。
心構え③ 信じるのは「意見」ではなく「データ」
とは言えユーザーがウソを付こうとしているわけではないし、ユーザーテストで身銭を切らせるわけにもいきません。では、いったいどうすればいいのでしょうか。
そう、必要なのは意見ではなくデータです。「NO FLOP!」ではデータを取得するための手法としてプレトタイプ(“プロト”タイプではなく“プレト”タイプ)というものが登場します。実際にプレトタイピングをやってみてどうだったかは、次回・第8話でご紹介します。
半年間ひたすらヒアリングを繰り返したことで、ニーズの捉え方はどう変わったか
BYARDの構想のスタートは、自分自身が事業を運営するものとして、そしてバックオフィスの実務者として感じてきた以下の2つのニーズが元になっていました。
目指す方向性として大きなズレはなかったと思っていますが、半年間ひたすらヒアリングを繰り返しマーケットインの視点で再定義した結果、ユーザーが抱えている課題は大きく分けて次の2点に集約できそうだということが見えてきました。
① マネジメントサイドの「把握ができない」課題
営業部門もかつては似たような状況だったのではないかと思います。営業担当者がそれぞれ個人商店として勘と経験で仕事を回していた。そこにSalesforceが登場したことで、データをもとに科学的に分析して管理と改善を行えるようになったのです。
バックオフィスにもSalesforceのようなデータの収集・分析ができるツールがあれば、マネジャー側も管理や改善がしやすくなるのではないか、というのが1つの仮説でした。
② 現場サイドの「共有と引き継ぎがうまくいかない」課題
皆さんも業務の引き継ぎをする/受けるときに苦労した経験があるのではないでしょうか。
「ナレッジマネジメント」のような情報共有に対する考え方は古くからありますし、新しいツールもどんどん生まれていますが、それだけ情報共有は難しいし、長年みんなが悩んでいるということなのでしょう。
そもそもバックオフィス業務はマニュアルさえあればできるようなものなのか?
ヒアリングを繰り返していくなかで新たに生まれた仮説。それは「マニュアルさえあればできるバックオフィス業務など、ほとんどないのではないか」というものです。
もちろんマニュアルがあることで効率的に処理できる部分はあります。しかし実際は、すべてマニュアルどおりに進む仕事などめったにありません。状況に応じて臨機応変に対応しなければならないことがほとんどだし、誰かの気配りのおかげで回っているような部分も多い。そういうマニュアル化が難しい部分にこそ、課題の本質があるのではないかと思っています。
デジタル化というと「カチッと定義された標準的な処理プロセス」だけがクローズアップされます。
しかし真の課題解決に向けた第一歩は、相手との調整や確認などの「行間」に存在する余白の部分、いわゆる人間らしさやある種の曖昧さを許容し、可視化することではないか——
この仮説を立てたことで、BYARDは既存のTODOリストやチェックリスト、マニュアルツールなどを進化させるのではなく、全く新しいアプローチで、マネジメント側と現場をつなぐプロダクトを作る方向に進んでいくことになったのです。
「BYARD開発記」シリーズのご紹介
「BYARD開発記」は全13話のシリーズになっています。
BYARDそれ自体は、数ある業務用アプリケーションの中の一つですが、その背景にはバックオフィスの実務家として、事業の運営者として感じてきた想いや経験があり、それをプロダクトの設計に込めています。
BYARDでは、私たちと一緒にバックオフィスの世界を変えるようなプロダクトを作る仲間を募集しています。もし開発記をお読みいただいて、ご興味をお持ちいただけたようであれば、ぜひお気軽にお問い合わせください。
シリーズINDEX
第1章:BYARDへとつながった背景ストーリー
第2章:起業・開発で活用した手法
第3章:BYARDのプロダクト紹介
最終章
BYARDの採用情報は、以下のページよりご確認いただけます。
また、BYARDのこと、業務設計のこと、バックオフィスのことなど、CEO・CTOと気軽に話せるカジュアル面談も実施しております。「気になるけど、いきなり採用に応募するのはな…」という方は、ぜひこちらへお気軽にお申し込みください。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?