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バックオフィスが生産性を上げるために本当に必要なこと|#BYARD開発記 13

「日本は労働生産性が低い」「今の仕事の多くは将来ロボットやAIに奪われる」——そんな言葉が叫ばれ始めてから何年経つでしょうか。

BYARD開発記の最終話となる今回は、バックオフィスが生産性を高めるためにはどうすれば良いのか、BYARDはそれをどうやって実現しようとしているのかをご紹介します。

「BYARD開発記」について ※本文はこの下からスタートです
株式会社BYARD・代表の武内俊介が、サラリーマンから税理士資格の取得を経て起業し、BYARDというプロダクトを作り上げるまでの開発ストーリー。

開発に至るまでの背景や、プロダクトの設計に込められた想い、起業・開発を通じて得た経験などをご紹介します。

※この記事は本人への約半年に渡る取材をもとに執筆/構成を行っています。
(ヒアリング/執筆/撮影:藤森ユウワ)
※プロダクトの画像は開発中のものであり、製品版とは異なる場合があります。

1. 増え続ける情報の“量”と、複雑化・高度化する業務

まずは現代のバックオフィスを取り巻いている環境や、その時代背景について考えてみます。

デジタル化によって、企業が扱う情報の“量”は増え続けています。

「現代は情報過多の時代だ」という話を、皆さんもどこかで耳にしたことがないでしょうか。出典元は不明ですが、現代人が1日に受け取る情報の量は「江戸時代の人の1年分である」とも、「平安時代の人の一生分である」とも言われています。

私たちの仕事に置き換えて考えてみましょう。

かつて昭和の時代は、営業担当がお客様を1件ずつ訪問して商談を行い、契約書や注文書を紙でやり取りしていました。情報が“アナログ”な方法でやり取りされていたので、流通する量にはおのずと物理的な限界がありました。

ところが令和の現代では、オンライン商談が普及し、書類はWebを通じて即座に届きます。モノやサービスの種類によっては人を介すことすらなく、Webサイトからオンラインで24時間・全世界から注文が入るようなものもあります。情報が“デジタル”な方法で大量にやり取りされるようになったのです。

もちろんバックオフィスも、デジタルにより業務の効率化は行われてきました。

しかし効率化された結果、やり取りされる書類(データ)の数やそれに付随するコミュニケーションの量は、昭和と令和では比べものにならないほどに増えました。さらに取引の形態が多様化し、定型化できないイレギュラーな業務が増え、求められる作業はどんどん複雑・高度になっています。


2. 科学的管理法の限界

画像引用元:https://www.diamond.co.jp/book/9784478009833.html

バックオフィス部門の業務は複雑化・高度化していますが、その管理方法は、現代においてもまだ、それほど大きくはアップデートされていません。20世紀初頭にアメリカの経済学者、フレデリック・テイラーが考案した“科学的管理法”の影響が、今も色濃く残っています。

科学的管理法にはいくつかの原則がありますが、現代語訳的に解釈すると以下の3つにまとめることができます。

1)管理者は業務が行われている状況を分析し、ベストプラクティス*を見いだす(*参考:Wikipedia
2)ベストプラクティスをマニュアルに落とし込んで標準化し、習熟レベルによらず誰でも行えるようにする
3)管理者がタスクやスケジュールを設定し、個人レベルではなくチームレベルで管理を行う

これはチーム全体として生産性を上げるためには非常に効果的で、100年たった今でも通用する管理法です。しかし時代の変化とともに、科学的管理法ではカバーしきれない問題も現れてきました。


2-1. 管理者が正解を知っていることが前提

1つ目の問題は、科学的管理法が「管理者が正解を知っていることが前提になっている」ことです。

テイラーがこの管理法を考案したのは20世紀の初頭。産業革命からすでに100年以上が経過していましたが、生産現場はとても非効率な状態でした。

今の私たちから見ると信じられませんが、当時の生産現場では従業員が思い思いの方法で作業を行い、がんばっても賃金が上がらないのでサボタージュ(怠業)が蔓延し、それを雇用主は叱責や解雇といった“恐怖”の力でコントロールしていました。

さらに当時は中等学校(現在の日本でいうところの高校)への進学率がわずか9%*しかなく、大学などの高等教育を受けているのはごく一部の人々のみ、という時代でした。(*参考文献:1900~10年代のアメリカ合衆国における中等教育としての職業教育の成立|岩手大学リポジトリ

このように生産性を上げるという考え方も、そのための手法もまだ存在していなかった時代においては、教育を受けた管理者が中央集権的に管理を行い、それに従業員を従わせる方が圧倒的に生産性を向上させることができたのです。

しかし時代は下り、業務が高度化・複雑化した現代のビジネス環境においては、ことはそう単純ではなくなりました。

管理者から状況がすべて見えているわけではありませんし、管理者が考えた作業方法が「絶対に正である」かも分かりません。業界や業種、事業の状況によって最適解は変化します。

分かりやすい正解がなく、管理者も現場も試行錯誤しながら自分たちで最適解を見つけ出さなければいけない時代になっているのです。


2-2. 現場の“柔軟性”や“創意工夫”が失われる

2つ目の問題は、標準化のトレードオフとして「現場の“柔軟性”や“創意工夫”が失われてしまう」ことです。

「誰がやっても同じ成果が出せるよう標準化されている」ということは、裏を返せば「個人が好き勝手に考えたり、行動したりしてはいけない」ということになります。

同じ業務を繰り返し処理するだけであれば、標準化は大きな成果を生み出します。ところが先ほども述べたように、イレギュラーな処理が増え、複雑化・高度化する現代のバックオフィスにおいては、管理者による中央集権的な管理体制では、現場の状況変化に対応しきれないケースが発生します。

実際にBYARDの開発にあたって行ったユーザーインタビューでは、「標準化したいが、なかなかうまくいかない」という声が多くの企業から聞こえてきました。

これだけデジタル化が進み、数多くツールがあるにもかかわらず「うまくいかない」ということは、もしかしたら「標準化の手法や道具が足りない」というよりも、「すでに標準化しきれないほど業務が複雑になっていて、現場の“柔軟性”や“創意工夫”でどうにか業務が回っている」ということなのかもしれません。


3. BYARDが目指す世界

バックオフィス部門を取り巻く環境や時代背景をふまえた上で、BYARDが実現を目指す世界を、いくつかのキーワードでご紹介します。


3-1. 小さくはじめる。少しずつ続ける。

唯一無二の絶対的な正解が存在しないのであれば、逆に、最初からうまくはいかない前提で試行と改善を行い、自分たちで最適解を見つけ出すという心構えが必要です。

バックオフィスは請求や支払い、給与、納税といった、企業における“お金の流れ”を支える役割ですので、通常業務を止めることは許されません。その意味からも大きな改革を一気に行うのではなく、普段の業務を回しながら、小さくてもいいのでとにかく始めて、少しずつでもいいので改善を続けていくことがポイントになります。

第10話でご紹介したように、BYARDは「まず今の業務をそのまま書き出してみる」ことからスタートすることができます。

そして第11話でご紹介した“テンプレート”の機能を使って、実際に業務を回して得た気付きを反映し、改善のPDCAサイクルを回すことができます。

これは起業における“リーン・スタートアップ”や、エンジニアチームにおける“アジャイル開発”のように、「とにかくミニマムに、すばやくリリースを行い、市場やユーザーの反応を見ながら改良・改善を重ねていく」という手法に通ずる考え方でもあります。

BYARDを使うことで、バックオフィスでも“アジャイル”な手法が使えるようになり、自分たちの手で最適解を見つけ出せるようにしたいと考えています。


3-2. 人に寄り添い、あいまいさを許容する。

アナログからデジタルへの過渡期にある現代においては、すべてを標準化・自動化しようとするよりも、ある程度人間的なあいまいさを許容することが鍵になるのではないかと考えています。

「バックオフィスはマニュアルがあれば誰でもできる定型業務だ」という風潮はいまだに残っています。しかし私の実務経験からすると、実際にはマニュアルには載ってこない非定型な業務が大半を占めています。

定型的な業務を行うためには、さまざまな部署や取引先とコミュニケーションを取り、調整や情報収集を行うことが先に必要なのです。

画像引用元:ITメディア_経理のDX推進のための業務プロセス再構築 - Speaker Deck

BYARDは業務の進捗やタスクの処理状況だけでなく、タスクに紐付く形でチャットでのコミュニケーションや作業メモといった“非定型な情報”も残しておくことができます。

人と人が仕事をする以上、その“つなぎ目”では必ずコミュニケーションが生まれ、あいまいさが生じます。映画に出てくるような完全なるAIロボットが登場しない限り、この部分を自動化するのはまだ難しいでしょう。

だとすれば過度に標準化・自動化を追うのではなく、むしろ、あいまいなものはそのまま受け止め、自動化できる部分との橋渡しをする方が、結果的に生産性を上げることにつながるのではないかと考えています。


3-3. バックオフィスに「業務設計」という武器を配る。

「業務設計」というと、経営コンサルタントが行うような、難しいイメージを持たれるかもしれません。

しかしBYARDを使えば、今の業務をそのまま書き出して整理し、業務を行いながらアップデートを行うことによって、自然と業務設計に近いことができるようになっています。

管理者が決めた業務を淡々と処理するのではなく、現場の普段の業務の中で得た“気付き”や“工夫”を生かして、改善のPDCAサイクルを回すことができます。

2015年、野村総合研究所とオックスフォード大学により「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」との研究レポートが発表され、大きな反響を呼びました。

レポートでは「人工知能やロボット等による代替可能性が高い100種の職業」が上げられており、その中には“経理事務員”などのバックオフィス職も含まれていました。

もちろん、誰でもできるような単純作業は機械で置き換え可能でしょうし、労働人口が減り続ける日本においてテクノロジーの活用は必要不可欠です。

しかし先ほども述べたように、人と人との間にある“あいまいな部分”を、現場の“柔軟性”や“創意工夫”によってつなぐこともまた、欠かすことができないものです。BYARDはそのための“武器”でありたいと考えています。


「BYARD開発記」シリーズのご紹介

「BYARD開発記」は全13話のシリーズになっています。

BYARDそれ自体は、数ある業務用アプリケーションの中の一つですが、その背景にはバックオフィスの実務家として、事業の運営者として感じてきた想いや経験があり、それをプロダクトの設計に込めています。

BYARDでは、私たちと一緒にバックオフィスの世界を変えるようなプロダクトを作る仲間を募集しています。もし開発記をお読みいただいて、ご興味をお持ちいただけたようであれば、ぜひお気軽にお問い合わせください。

シリーズINDEX

第1章:BYARDへとつながった背景ストーリー

第2章:起業・開発で活用した手法

第3章:BYARDのプロダクト紹介

最終章


BYARDの採用情報は、以下のページよりご確認いただけます。

また、BYARDのこと、業務設計のこと、バックオフィスのことなど、CEO・CTOと気軽に話せるカジュアル面談も実施しております。「気になるけど、いきなり採用に応募するのはな…」という方は、ぜひこちらへお気軽にお申し込みください。


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