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一度でも愛された人は、やさしくなれる。

これがなければ生きていけないとかじぶんを

縛ることはしたくないけれど。

小さい頃は確実にそれがあった。

ずっとこの先生が担任だったらいいのにとか。

ずっと隣の席はゆうこちゃんじゃなきゃいやだ

とか。

誰も塾とか行かないでずっと放課後だったら

よかったのにとか。

わたしは塾に通ったことがなかったから

けっこう一人遊びが得意になっていた。

そして、教科書はきらいなのに活字も好きじゃ

ないのにどこかで数冊の絵本はじぶんにとっての

最後の砦だと想っている所がずっと小さい頃から

あった。

父と折り合いがつかなくて、叱られていた

ばかりの自分をすこしなぐさめてくれてると

勝手に思っていたのが絵本や童話だったからだ。

ガース・ウィリアムズの描いた

『しろいうさぎとくろいうさぎ』の原画を

みたとき、この線のやさしいつらなりを

どこかでみたことがあるような気がして、

ぐるぐると記憶をたどる。

それは『大きな森の小さな家』『小さな家』

シリーズの挿画だったことを知って、なんとなく

子供時代の懐かしさと苦さみたいなものが、ふと

そこに浮かんでいた。

わたしがこの世からなくなってほしくなかった

ものそれは『大きな森の小さな家』だった。

『しろいうさぎとくろいうさぎ』の

くろいうさぎが首を傾げながら、ふりかえり

まえあしをふたつそろえてあげて、しろい

うさぎをみつめている。

それはくろいうさぎが、じぶんの願いごとを

しろいうさぎに告白する場面。

うさぎが2匹と木いちごらしい果物の実が

ふたつぶ実っている。

とてもシンプルな絵なのに、なにかずっと

見いってしまいたくなる。

そんなみえないちからのようなものが

すうっと伝わってくる。

そこに描かれたうさぎという生き物は、

筋肉や脂肪もなにもなくて、ただただ

あたたかなほわほわした毛だけで形作られて

いるというようなそんなからだで。

相手をみているときの眼の光はまるで、

慈悲に満ちている。

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こんな眼をみていると、生き物達はときにひとの

ことをこんなふうに見上げることがあるなって、

思う。

あのはっとする瞬間が、ここに再現されている

ようだった。

どうしてこういうふうに、ひとの目をくぎづけに

できてしまうんだろうと思いながら、描いたひと

ガース・ウィリアムズというひとのものがたりを

読む。

湯気で曇った窓ガラスに上手に絵を描くのが好きな
少年は、二度も戦争に巻き込まれながらもおとなに
なって、数々の作品を産み出してゆく。 

そう記された言葉を目で追いながら

4度の結婚を経験した彼の84年の生涯は、

はじまりから途方にくれるような、波乱にみちた

みちのりなのに、彼の視線はいつもあしたを

向くことをあきらめなかった。

そしてやさしくあることを、なにより信じていた

ひとなんだと、思った。

なにであれ、信じることはむずかしいし、

それが一瞬ではなくて、永遠に近いじぶんが

生きてゆく上での指針のようなものとして、存在し、

信じ続けることは、もっと困難なことのように

思えることがあるのに。

ガース・ウィリアムズはそういう状況を、とても

しぜんに受け入れているひとだということに、

半ばうちのめされるように彼の人生の物語の

一部に触れていた。

とりわけ印象的だったのは、

『しろいうさぎとくろいうさぎ』の創作メモの中に、

together always forever


この言葉たちがリフレインされるところ。

おさなかった頃にすでにかなしみという感情を

からだやこころで、痛いぐらいに感じ取っていた

ガースにしか獲得できない、信条だったのかも

しれない。

ガースの描く線は、ちょっと指でこすったら

たちまち指の先がくろくなってしまうんじゃ

ないかっていうような、なんか素朴な色合いで

重なっている。

木炭鉛筆の持つ、素朴であたたかくてやさしい

感じ。

彼が亡くなってからも妻のレティシアは

「I miss him.」と何と呟いたかわからないといい、

孫たちにも

「素敵な人だったの、あなたたちにも会わせたかった」

ってインタビューの中でもそうおっしゃっていた。

 誰かに底抜けにやさしくされた経験を持つ

ひとはまるで写し鏡のようにほんとうにやさしく

なれるんだろうなって。

ここからは想像というか夢想に近いけれど、

その鉛筆のにじんだ線そのものが、ガースじしんの

ようにみえてきて、いないけれど、ここ、

ここらへんにガースはいるんだなって、

わけもなくうれしくなっていた。

曇り窓 指先で描く 流線形が
やさしさの ちいさな器 ひたひたにして
♪Happy Birthday to you♪




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