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なじむって愛おしい、夏のタオルケットのように。

知らなかった人とすこしずつ
近しくなってゆく時。

なんかふたりの間に流れてる空気が
ちがうのを感じる時がある。

馴染まなかったタオルケットが
やがて馴染んでわたしのタオルケットに
なっていくように。

しなっとしてる。
湿気の多い海辺で洗濯物をしたときのような
乾き方の衣類のように。

かりっとするにはもう一声って感じの手触り。
でもそれが、いつのまにかなじんでしまって
夏の間は離せなくなってしまった、
タオルケット。

破けたりはしないけれど、洗濯機の中で
ずいぶん鍛えられた糸の部分はがりがりを
通り越して、こなれてしまったようだ。

あたらしいものも、クローゼットの中にあるのに、
なかなかそれを使えないでいる。

まだ使えるからっていうよりは、ずっとこれを
使っていたいっていう気分の方がすこしだけ
勝っているのかもしれない。

あるひとが、いつもブルーと白のストライプの
タオルケットが大好きで、夏はそれに顔を
埋めるようにして眠っていた。

側には猫もいて、彼は彼の居場所があるらしく
彼の足下で眠っている。

猫と暮らし始めてから、規則正しくまっすぐ家に
帰る日が続いていたのに、ある真夏の夜。

思いがけず帰りが遅くなってしまった彼は
じぶんの部屋のベッドの上で寝ている
猫をみた。

なんの変哲もない部屋のいつもみている
景色なのになんだか胸がひりひりする。

同居人の猫が、いつも彼がひとりじめしている
しましまのタオルケットにまっくろいからだを
すっぽり包むように、鼻をおしつけながら、
眠っていたから。

彼の匂いを感じたくて、その長い糸の塊を足で
引き寄せている、黒猫の絵が思い浮かんで、
こっちまで愛しくちくちくした気持ちに駆られる。

彼は、一瞬制御できないような感情に見舞われて、
うわっとその黒猫を抱きしめたかったけれど、
がまんしてそのタオルケットを猫にゆずったまま
眠ったらしい。

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まるで猫とれんあいしているかのようで、
ほほえましいようなおかしいような、って
思いながら、だれにも使い古したタオルケット
には記憶がつまってるものだなって思って、
聞いていた。

あのくたっとした繊維。
まるで猫っ毛のようで。

それはきっとそのひとの匂いがしらずしらすに
しみついていて。

もしかしたら、しらない国ではなじむって
ことの語源がタオルケットだったらいいな。

もう冬なのにタオルケットの話を書いて
しまった。

なじむって愛おしいな、なんておもうこの頃
です。

ささやかな 記憶をたどる たどる間もなく
あのひとと 思うそばから あのひと馴染んだ 

       

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