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書く時は、まだ見ぬあなたを想って書いている。

書いている時は誰しもひとりの

あたまで考えたり思ったりして

いるわけだけど。

小さい頃からじぶんひとりの

ノートに何かを綴ってきたから

ひとりというよりは、そこに書かれた

文字や話や詩のようなものが書いている

時は一緒にいてくれた気もする。

ひとりなのだけど。

どこかでひとりじゃないような。

そしていつからか、思うようになった

ことがある。

同じように考えている人はいるかな?

と思いながら夢想すること。

例えばこんなふうに。

今もSNSとかやらないで、ひっそり歌や詩を

ノートに書いて。

有名になりたいとかじゃなくて

自分の気持ちと折り合いつけるために

書いている人が何処かにいて。

淡々と描くとか書くということを

あたりまえの運命のように受け止めながら

それやるのがしんどいとか、誰にも聞かれて

いないのに辞めようとか。

そんなことを思う隙も与えないように

呼吸のように書く人。

そしていつかその人が亡くなった時に

膨大な紙のノートにはいくつもの傑作と

呼ばれる作品が書かれていて。

それを読んだ人はざわつく。

ざわつくだけじゃなくて、

どこかには怒り出す人もいる。

それは図星だったからだ。

それを目の当たりにした人は

図星だと言い当てられたあれこれに

ついて気が付くと考えているように

なっていて。

なんでそんな無名の人間に翻弄されるんだ

って、一瞬濃く腹が立つ。

嫉妬という名のものかもしれない。

そして。

ありがちだけれど。

もっと長生きしていたらその人はどんな

作品を残したんだろうと、みんなの頭が

勝手に夢想している。

書くということは、少し怖い。

発言するときに軽く咳払いするぐらいの

緊張感はもっていたいと感じている。

それはわたしの約束なのでみんなが

そうしたほうがいいとは全然思っては

いない。

わたしはまだ会ったことのない書き手に

嫉妬するくせに。

すごく会いたいのだと思う。

こんな人がこんな場所に埋もれていたんだ。

って思いたいことに焦がれてる。

本人からしたらちゃんと息をして生活を

しているわけだし。

世の中になにかを発表したいと思って

いたわけじゃないから、埋もれてるとか

言うなってことだけど。

そういう人が暮らしていた本棚に囲まれた

こぎれいな部屋には、Amazonでググっても

どこにも出てこない一冊のすばらしい装丁の

詩集が机の上に置いてあって。

同じ場所を何度も読んだような跡がある。

ページがよれている。

もしくは付箋が意味のある色の羅列の

ようにページの上に規則正しく並んでる。

最後は林檎を齧った跡があるお皿が

文机の上にあって。

パンも一口齧った跡がそこにある。

パンのそのギザギザの跡が切ないような

そんな写真だけが誰も読まなくなった

地方の新聞に掲載されていて。

近所の人にもあまり知られないのに。

遺されたノートの中に珠玉の言葉が

綴られている。

SNSにまみれて、言葉を吐いている

いつも新作を待たれている詩人が

その言葉はわたしのものにしてしまいたいと、

彼の作品に嫉妬する。

そしてその詩人は、ひっそりとそのノートに

綴られた言葉を読みながら喉から手が出る

ほどその言葉が欲しいと思う。

スマホで一度スクショをとる。

その部屋の中には「カシュン」と

すかすかのシャッター音が響く。

部屋の片隅に飾られた、ふるぼけた写真の

なかのその人の眼に、その詩人は

射貫かれた気がして背筋が凍る。

その写真の眼に気圧されて

思わずスクショを削除する。

書く前に、見知らぬ誰かを想像

するようになったのはいつ頃から

だろうか。

どこかにまだどこのだれでもない

そんな密やかで素晴らしいまだ見ぬ

書き手がいるんだと思っていつも

書いているような気がする。


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