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夜は笑ったまま眠りたかったんだよ。

人生でもドラマでも最終回というのは

いつかやってくるものだ。

落ち着こう。

そう思いながら#まめ夫 を観ていた。


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そうか、とわ子は自転車に乗れないのかって

大門坂美恵子は想った。

わたしは自転車ぐらいは乗れる。

手放し自転車もやったことあるけど。

それを誰かが見てくれていたことはない。

小さい頃から太ももがしっかりしていたせいで、

道を歩いても転ばなかったし、三輪車もすんなり

乗れたので自転車は誰の手を借りずともするする

乗れたのだ。

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大門坂美恵子はそんなことはどうでもいいと、

そう思った。

とわ子が自転車に乗れないからと言って

とわ子に勝ったとかそういう感情はない。

もともと、とわ子のスペックはわたしには

及びもつかない。

どちらかというとわたしはかごめだから。

とわ子の唯一無二の親友だったかごめは

あっちに早々といってしまったけれど。

彼女のように漫画を描く才能もないけれど。

性格はどちらかというとかごめだ。

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才能はべつになくてもいいって想う。

才能っている?

自信もなくっていいと思う。

自信っている?

大豆田とわ子の3人目の夫

慎森の口癖のように、大門坂美恵子はそう

つぶやいた。

そして今日は、父の日じゃないかと思いながら

これを書いてる。

大門坂美恵子は父親とうまくいかない時期を

過ごしすぎて、こじらせたまま大人になって、

いまはひるがえって、外面のいいふたりは

仲のいいふりをしてしまってる。

そんなことはどうでもいいよ、じぶんのことは

いいんだよと、大門坂美恵子は凹んだ。

自分語りはすまいと思いながら語ってしまう

じぶんがいやだ。

それよりもとわ子のことを想いたい。

火曜日は『大豆田とわ子と3人の元夫』

最終回。

とわ子と風呂上がりの父親が話すシーンを観ていた。

父、大豆田旺介は、元参議院議員で落選つづき、

選挙活動に明け暮れている。

そして旺介は、娘が大事な時に一緒にいてやれなかった

ことを今になって悔やんでる。

おもむろに缶ビールをコップについで、それを

不機嫌気味な娘に渡しながら言うのだ。

「あなた、自転車に乗れないでしょ」

って。

娘は

「乗れないね」

だからそれがどうしたよ! so what ?  

みたいなノリで突っ返す。

父旺介は「わたしが教えなかったからです」と

申し訳なさそうに言う。

美恵子は想う。

この大豆田旺介の好きなところは語尾が丁寧な

ところだと。

そういうところかなり好きだ、と。

そして接続詞代わりにビールを飲んでふたたび

こういうのだ。

「ちょうど、教える時期だったからね。私が家に帰り
たくなくなったのは」

って。

大門坂美恵子は、これは自分の父親の話かと思うぐらい

心で頷いていた。

2重生活を始めた頃の父のことを思い出しながら

それを振り払う。その記憶の中の映像は邪魔だ。

立ち上がった父親旺介は、とわ子のリビングの

ベランダのスベリの悪い網戸を直してあげながら

ふたたび語りだす。

「あなたは、すごいな。1人で立派になって」

この時、大門坂美恵子はわたしは立派なことなに

ひとつ父親にみせつけることなく大人になったことを

苦い思いでかみしめていた。

泣いてない。

泣いてないけど、若干もやっとするね。

「お父さんとお母さんがあなたを転んでも起きる子に
してしまった」

悔やんでいる旺介。

大豆田とわ子はその後の人生も、運と才能に

夫にもある意味恵まれながら

しろくまハウジングの社長にまで

昇りつめた。

しかし、大門坂美恵子は大豆田とわ子に

嫉妬のしも感じない。

どちらかというと、かごめに感じる。

嫉妬のしじゃなくて。

こよなく好きの、こぐらいは感じてる。

まだ涙腺は平気だった。

父親の言葉ぐらいじゃ泣かんよ、と。

大門坂美恵子は日常の殆どの時間を油断している。

あんた、すきがあるからつけこまれんだよ。

脇があまいっちゅうの!

チーフにもいつもそう言われてる。

すきをつめて、脇を辛くすることは大門坂美恵子に

とってそれは無理に近い。

そんなものだから大豆田とわ子が何か喋り出した時も

ぼうっと聞いていた。

ただ聞いていた。

「私、ちゃんと色々な人に起こしてもらってきたよ
田中さん佐藤さん中村さんにだって。今はひとりだけどさ。
お父さんだって支えてもらってたよ」

大門坂美恵子は、深夜のリビングで仁王立ちで

泣きそうになった。

とわ子よ、そうかいそうかい。

支えてもらっていたことは知っていたけれど。

今それを言えたねとわ子、あなたすごいよって

心の底から大門坂美恵子は、思った。

そして大門坂美恵子は、小さかった頃父親に

夜通し勉強の特訓を受けながら、泣かされて

ドリルが解けるまで眠れない生活が何年も

続いてきたことをこんなに大人になった

今も想いだすことにもうピリオドを打ちたかった。

それがよかれと父親は想っていたんだろう。

この間大門坂美恵子は、そのことを父親に思い切り

打ち明けてみた。

あれは、なくてよかったよね。

深夜のドリル問題解けるまで眠らせないとかって

父親としてあり?

なくていいよね。

って。

そうしたら大門坂美恵子の父、秀介は。

え? なに?

美恵子ちゃんそれっていつの話? って

のたもうた。

忘れたふりなのか、忘れたのかしらないが。

あの深夜の算数猛特訓旺文社ドリルの夜。

あれはなかったことになっていた。

あの頃、大門坂美恵子はいつも父親の叱咤や

怒声にびびりながら、泣きべそをかいて夜を

終えていた。

その頃、大門坂美恵子は夢を見ていた。

何もいらないからいつか、わたし笑ったままで

眠ってみたい。

そう、大豆田とわ子だったらきっというよねって。

夜は笑ったまま眠りたかったんだよ。

後はなんでもいいよ。


ってそういうにきまってるって思いながら。

あと数時間で終わる父の日の日記をnoteに

投稿することにした。


信じるって ふたしかですが おぼろげですが
片隅で 抱えたこころ ほどいてほしい 




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