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きみが、誕生日に贈ってくれた色鉛筆。

いつだったかの誕生日に贈られてきた

30色の色鉛筆。

差出人は、わたしが大学に通いながら、

夜間通っていた同じ広告の専門学校の

同級生だった。

彼は、ニューヨークで料理人の修行を

経て、広告の仕事を目指していた4つ上の

男の子だった。

毎週課題をこなしながら、いわゆる、真剣

というかなんちゃって気分を含みつつ、

セッサタクマする仲間が6人ぐらい、いたの

だけど、そのなかのひとりだった。

T君は、わたしが広告の道に進んでしばらく

経った頃。

憧れていた世界だということも忘れている

そんな、何もかもがうまくいっていない時に、

なぜかこの色鉛筆を贈ってきてくれた。


時々日記に色が欲しくて使ってた。T君が贈ってくれた30色の色鉛筆。
「IROJITEN」。


絵を描くのも好きで、絵コンテの時は

彼にまかせていたこともあったけど。

なんで、色鉛筆なん? って聞いたら、

え? だって楽しいやん、色がいっぱいあるん

やで~って笑ってた。

ほんと、楽しい、ありがとう。

って言いながら、もう少ししたら、ま、

なんとなくやけどさ、ちょっといつも

しんどそうやん、仕事。

わたし?

そや、ぼんちゃんの話やで。

(笑)(笑)

うん、時々辞めたくなるねん。広告の

仕事向いてないような気がするねん。

打ち合わせひとつとってもどれも

うまくいかへんし。だから、うまく

いかへんなって時には、ちょっと笑って

もらって、許してもらってる。

なんやそれ?

わたしもようわからん。

コミュニケーションって、ラリーみたいな

もんやねんって社長の洋子さんもいいはる

んや。

うん。

それがどうもあかんらしい、わたし。

広告の学校の時は、平気やったやん。

T君が、フォローする。

あかんねん。だから、笑ってもらってちゃらに

してもらおうってどこかで思ってるんかな。

いちおう、コミュニケーションやん。

T君は、そうなんやって言って。

そこで、吸収すなってわたしは思いながら、

ちょっと一息置いた後、なんか話し始めた。

ま、俺ら広告の世界目指してたわけやけどさ、

ぼんちゃんは会社も入れたやん。

そんで俺ら応援するわって言ってたんやけど。

俺ら勝手に応援してるだけなんやから。

気にせんでええねんで。

しんどかったら、ほかの仕事でもええやん。

ぼんちゃんはいつもひとつことに一生懸命に

なるからしんどいねん。

好きになる人もひとりやろ。

ふつう、ひとりやろ?

そやけど。そういう生真面目なところあるやん。

だから、色鉛筆選んでん。

なん? なん?

あとは、自分で考え! ~って言ってさっさと

仕事用の軽トラでわたしの家の玄関先から

去っていった。

わたしの手にはずしりと重い、色鉛筆たちが

残った。

あけると、ふたの木製の匂いが少しした。

わ、この匂いなんか忘れへん気がするなって

思った。

あれから何年、経っただろう。

今もあの鉛筆セットたちはわたしの部屋の

なぜか本棚に並んでいた。

久しぶりに開けてみた。

色の名前をみていた。

上のnote色みたいのが、ICE GREENで。

2番目が、AUTUM LEAF

3番目が、FOREST GREEN 

4番目が、IRIS VIOLETだった。

T君は、はげましのようにくれた色鉛筆。

自分で考え~って帰っていったけど。

たとえばT君を色鉛筆にたとえると

色々な顔があるなって思った。

仕事を通してだけど、料理人の顔、

ピザがうそみたいに美味しかった。

引っ越し業者さんの顔。

わたしんちの引っ越しするときも

スパルタな感じで荷物をまとめてくれた。

あと、趣味の静かな格闘技。

関節技を決めてるときの顔、子供になにかを教えてる

ときの遊んでもらってうれしいなみたいな顔。

T君は、たくさんの職種を知って、転々としながら、

結果公務員に落ち着いた。

最近は話していないので、その後のT君を

くわしく知らないけれど。

どの季節を生きているときも、思えば自分の

悩みと言えば、失恋の時ぐらいで。

あんまし愚痴を聞いたことはない。

あの日、色辞典という名の色鉛筆をわたしに

くれた時、俺も欲しいぐらいやったわって

笑った。

定点観測が好きなわたしに、ひとつのこと

ばっかりじゃなくても、道は色々あるねんで

って教えてくれたのかもしれない。

この色鉛筆は今もわたしにとってお守りの

ような30本なのだ。

ふたの木の匂いが今もするかなって思ったけど

ほとんどなにもしなかった。

それだけわたしたちに時間が流れたんだなって

思った。

今日はなぜかそんなことを、思いたくなっていた。



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