見出し画像

いつの日か、あなたが眠れますように。

冷蔵庫の野菜室がすこし、ぽつぽつと

すきまを見せだして。

たっているセロリとまっしろなねぎや

こしかけているトマトやブロッコリ。

ちょっと隙間があいてきたなって。

こういう眺めをうえからみていると

すーんと落ち着く。

みたされているときよりも、ずっと。

理由はよくわからないけれど。

ジャムの瓶も珈琲の瓶も残り少なくなって

きたときのほうが、なんとなく精神衛生上

やすらぐ。

どうして、みたされているときのほうが

ほっこりするでしょっていつも言われたり

するのだけれど。

画像1

雑踏がとても苦手っていうのと関係あるのかも

しれない。

月の満ち欠けにしても。

欠けてゆく、やせてゆく月のひかりをみている

だけで、ずんとおもいがけなくなにかが刺さる

感じがするときがある。

わらいすぎた夜なんてとくに。

ひたひたのものがかたちをかえて、もうすでに

そこにいなくなることに、心ひかれる理由は

探れないまま、8月がもう真ん中あたりを

すぎてしまった。

でもひとつだけ、なくしてしまうことが惜しい

瞬間があることを思いだす。

すきな絵本や本を読んでいる時。

終わりが近いページを読んでいると、ページを

めくるゆびの速度がまえにもましてわざと、

ゆるやかにしてみたくなることがある。

今日はまだたっぷり本のページをめくれる

からうれしい。

大好きな本の冒頭を読んでいる。


 いつから私はひとりでいる時、こんなに眠るように
なったのだろう。
 潮が満ちるように眠りは訪れる。もうどうしようも
ない。その眠りは果てしなく深く、電話のベルも、外
をゆく車の音も、私の耳には届かない。何もつらくは
ないし、淋しいわけでもない、そこにはただすとんと
した眠りの世界があるだけだ。
     吉本ばなな著『白河夜船』冒頭より。

主人公の寺子は、仲の良かったしおりを亡くした

ばかり。

彼女のしていた仕事は「添い寝」することだった。

傷ついた人の隣で眠るという仕事をしていた

しおり。

この冒頭を読みながら、ふいに今ちゃんと心行く

まで眠れている人はどれぐらいいるだろうと

思った。

わたしが眠れないなんてことは、

比にならないほど。

世の中にはあらゆる理由で眠れない人が

いることは確かだ。

8月31日のことを想って眠れない誰かも

そうだと思う。

こんなふうに書いているわたしも何か

うしろめたいのだけど。

眠る前のあの満ちた時間を、味わえるような

そんな眠りが誰にでも訪れるようになると

いいなと本気で思う。

わたしは家がこわかったから、父が怖かった

からなかなか眠れないまま不眠症が

クセのようになってしまったけど。

好きな人に昨日はよく眠れた? って聞いた

時に、熟睡したわ爆睡したわって聞くのが

とっても好きだった。

あのね なんでもいいから ずっと喋ってて
寝息が 聞こえると 淋しくなるから


この記事が参加している募集

眠れない夜に

いつも、笑える方向を目指しています! 面白いもの書いてゆきますね😊