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恋を失ったら墓にゆく。#毎週ショートショートnote

わたしが失恋墓地に埋葬されたのは

もうずいぶん昔の話だ。

鯉が島のはずれにある林の中の

お墓。

あの恋は、未必の恋だったのに。

木乃伊取りが木乃伊になるように

恋に落ちていた。

恋に落ちるって、どういうことか

おわかりだろうか。

恋に落ちるとは読んで字のごとく、

奈落に落ちることだ。

階段がすっぽぬけるように落ちた。

落ちてゆく途中ずっと彼もそこにいた。

一緒に落ちようっていう言葉を

耳に入れたせつなふたりは

ふたりを取り巻いていた人たちに

ほんとうにその恋でいいのか?

と、落ちながら問われ続けた。

この恋でいいのかわからない。

好きになった理由なんて知らない

と、彼は言った。

理由を知りたかったわたしはその

瞬間、恋を失った。

その後つないでいた指が離れて

わたしは落ちた。

ここは噂の失恋墓地だった。

懐かしくて甘い匂いのするそこは、

戻るべき場所のように思えた。

いつかわたしはここで生まれた。

失恋した誰かのお腹から

わたしは生まれた。

そんな気がしてならなかった。

(410文字)

今年初めての毎週ショートショートnoteです。
お題は「失恋墓地」でした。
ここまで読んで頂きましてありがとうございます👼


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