岩松勇人プロデュース@ビジネス本研究所:他者と働く わかりあえなさから始める組織論 宇田川元一
【他者と働く】はこんなあなたのための書籍です。
●上司とソリが合わない人
●人間関係がうまくいかない人
●チームで仕事をするのが苦痛な人
●いつも意見が対立してしまう人
●自分の意見こそが正しいと思っている人
【他者と働くの目次】
はじめに 正しい知識はなぜ実践できないのか
第1章 組織の厄介な問題は「合理的」に起きている
第2章 ナラティヴの溝を渡るための4つのプロセス
第3章 実践1.総論賛成・各論反対の溝に挑む
第4章 実践2.正論の届かない溝に挑む
第5章 実践3.権力が生み出す溝に挑む
第6章 対話を阻む5つの罠
第7章 ナラティヴの限界の先にあるもの
おわりに 父について、あるいは私たちについて
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【要約】
今回は、
「他者と働く」
という本を解説します。
この本を理解する上で欠かせないのは、
ナラティブという馴染みのない言葉です。
ナラティヴとは、ビジネスをするうえでの
専門性や職業倫理、組織文化などに基づいた
「解釈の枠組み」のことです。
組織の中で起きている、
「わかりあえなさ」や「やっかいな問題」は、
ノウハウやスキルが通用しない問題のことが多い。
そして、当事者同士のナラティヴの間に
溝ができていて、しかもそのことに
気づいていない状態である可能性が高い。
こうした人間関係の溝を知って、
それを埋めていくための手順を踏まないと
いつまで経っても問題が解消されず、
不毛な努力やストレスを負うことに
なってしまいます。
この本の結論は、
という内容です。
厄介な問題が起こってしまった時は、
自分のナラティヴをいったん脇に置いて、
相手のナラティヴを観察してみることをすすめている。
溝を越え、相手のナラティヴのなかに飛び移って、
こちら側を見てみるのだ。
そうしたことを通じて、当事者間に
「新しい関係性を構築すること」が可能になり、
物事は解消に向かっていく。
こうした一連のプロセスを対話と呼んでいる。
対話の本質は、
「相手の身になって考えても、
相手の身になれないということを受け入れておく」
ことともいえる。
それを心構えのレベルではなく、
実践に裏づけられた再現性の高いメソッド
として提示しているのが、
本書で得られる一番の学びです。
本書の重要なポイントを3つにまとめて解説します。
それでは順に解説していきます。
まず1つ目のポイント
1 技術的問題と適応課題
ビジネスの現場で生じる課題には2つのタイプがある。
1つは、既存の方法で解決できる「技術的問題」だ。
もう1つは、既存の方法では解決ができない、
複雑で困難な「適応課題」である。
適応課題とは、他の部署に協力を求めても
なかなか協力が得られない場合のように、
これといった解決策が見つからない問題を指す。
例えば、ロジカルに提案のメリットを説明しても、
何か別の理由をつけてまた断られてしまう。
しかも、その理由がいまひとつはっきりしない。
こうしたことを繰り返すとき、
それは適応課題だということがわかる。
組織のなかで私たちが抱えたままこじらせている
「わかりあえなさ」や「やっかいなこと」の背後に、
適応課題が潜んでいる。
適応課題とは、向き合うことが難しい問題、
ノウハウやスキルでは解決ができない問題なのである。
適応課題には、次の4種類がある。
1つ目の「ギャップ型」は、
大切にしている「価値観」と実際の「行動」
のギャップが生じるケースである。
例えば、女性の社会進出が必要であるという
価値観を受け入れながら、実際の職場での行動は
相変わらず男性中心といった場合だ。
2つ目の「対立型」は、
互いの「コミットメント」が対立するケースである。
社内における営業部と開発部の対立
などがわかりやすい例であろう。
前者は短期的な業績達成をめざす一方、
後者は契約に不備がないことを優先する。
こうした枠組みの違いが対立を生む。
3つ目の「抑圧型」は、
「言いにくいことを言わない」ケースである。
ある事業についてあまり先行きがなさそうだと
わかっていても、撤退を切り出しにくい。
そのため、あれこれとテコ入れを続けていく、
といったケースがこれにあたる。
4つ目の「回避型」は、
本質的な問題に取り組むことが痛みや恐れを伴うため、
これを回避しようと逃げたり、
別の行動にすり替えたりするケースだ。
職場でメンタル疾患を抱える人が出てきたときに、
役に立たないとわかっていても
ストレス耐性のトレーニングを施す
といったケースがこれにあたる。
いずれの型も、既存の技法や
個人の技量だけでは解決できない。
本質的には人と人、組織と組織の「関係性」
のなかで生じている問題だからである。
ビジネスの現場では、複数の型が絡まり合って、
問題が複雑化していることが多い。
2 関係性の溝に橋を架ける4つのプロセス
こちらのナラティヴとあちらのナラティヴに
溝があることを見つけて、
「溝に橋を架けていく」こと。
これが「対話」です。
ここでいう対話とは、コミュニケーションの手法ではなく、
「新しい関係性を構築すること」を意味する。
この対話こそが、適応課題に向き合い、
その解消をめざすための手法である。
哲学者のマルティン・ブーバーによると、
人間同士の関係性は、2つに分類できるという。
「私とそれ」の関係性、そして「私とあなた」の関係性。
前者は、向き合う相手をまるで
自分の「道具」のようにとらえる。
これに対し、後者は、相手の存在が代わりの
きかないものだととらえています。
対話とは、「私とそれ」の関係性を乗り越えて、
「私とあなた」の関係性へ移行することを
促すものだといえる。
次に関係性の溝に橋を架けていく
「対話」の4つのプロセスを紹介する。
このプロセスは、準備・観察・解釈・介入から成る。
順に見ていきましょう。
プロセス1:準備(溝に気づく)
最初は「準備」です。
相手と自分のナラティヴのあいだに溝、
すなわち適応課題があることに気づく段階だ。
色々な手段を実行しようとしても、
相手がなかなか動いてくれない、
話が通じないといった場面に直面したとしよう。
そのとき、状況を俯瞰し、いったん
自分のナラティヴを脇に置いてみる。
すると、自分のナラティヴに囚われていたときには
気づかなかった、相手ならではの事情や
状況が姿を現してくる。
やがて、相手とこちら側の間に大きな溝が
あることに気づけるようになる。
「互いにわかり合えていないことを認める」ことが、
対話に欠かせない要素となります。
溝に気づいて、それを受け入れた状態が大事です。
プロセス2:観察(溝の向こうを眺める)
準備段階を終えると、次は「観察」のプロセスです。
ナラティヴの溝が一体どういう事情で
発生しているのかをよく見定めます。
そのためには、溝の位置や相手のナラティヴを
探ることが求められる。
相手の言動や相手を取り巻く状況などを、
じっくり観察しなければならない。
相手にはどんなプレッシャーがかかっているか、
相手にはどんな責任があるか、
仕事上の関心は何か。
何を大事にし、何を恐れているのか。
こうした点をよく観察する。
プロセス3:解釈(溝を渡り橋を設計する)
「解釈」は、観察して得られた情報から、
橋を架けるために、どこにどんな橋を架けるべきか
を設計するプロセスである。
まずは、溝を越え対岸に渡り、
相手のナラティヴの中に飛び移ってみる。
相手がどんな状況で仕事をしているのかを
シミュレーションしてみる。
つづいて、こちらの言動が相手からはどんな風に
見えるのかを、よく眺めてみるのである。
こうした取り組みにより、こちらから
どのようにアプローチすれば、
新しい関係性ができるのかという道筋が見えてくる。
プロセス4:介入(溝に橋を架ける)
最後に、「介入」は、解釈から見えてきたことをもとに、
実際に行動するプロセスとなる。
橋という「新しい関係性」を築くのだ。
実際に行動してみて、うまく橋が架かることもあれば、
架からないこともある。
本当に橋が架かっているか、うまくいっていない
点がないかをチェックすることも重要となる。
新しい関係性を築くことができたら、
その新しい関係性を通して、さらに観察を行い、
橋を補強する、別の新しい橋を架けるなど、
新しい関係性をさらに更新していく
3 対話の実践
対話は不要な対立を避けるための行動である。
組織で新しい提案をするときにこそ、
この対話を使わない手はない。
直属の上司が、自分の新しい提案に対して、
保留しているだけで動いてくれない、
あるいは前例がないからと拒否する。
こうした状況を解消するにはどうしたらよいのか。
めざすのは、上司が「よしやろう」と前向きに
判断できる状況をつくることである。
まず準備として、
「なぜ上司は自分の提案を受け入れないのか」
といった不満、不信に染まった自分の
ナラティヴを脇におく。
そのうえで、上司のナラティヴをしっかりと観察し、
解釈し、上司が動きやすい状況を
つくるために介入を試みるのだ。
それは、論破することでもなく、忖度をすることでもない。
相手のナラティヴに入り込み、
新しい関係性を構築することである。
気をつけなければならないのは、立場の弱い側は、
立場の上の人間を一方的に悪者にする
「正義のナラティヴ」という罠に陥りがち
だということだ。
必要なのは、自分を正当化せず、
両者にとっての正論をつくっていくことである。
上の立場の人に働きかけるうえで、
もう1つ重要なことは、会社の事業戦略との
整合性という観点から、いま一度自分の
取り組みを振り返ってみることだ。
自分が新しくやろうとすることが、
どのように会社の事業に貢献するのか。
この点を無視しておくと、たとえ提案が通っても、
持続可能性は確保されないからだ。
「会社が、上司が、協力してくれない」
と批判する声はよく聞こえてくる。
部下からすると、上司や会社の方針が
偏って見えていることだろう。
一方、上司から見れば部下が偏って見えているはずである。
もしかしたら部下側が、対話を行う中で
自分の提案は会社の未来には貢献できないのでは、
と気づくかもしれない。
自分のナラティヴの偏りに気づく瞬間である。
そこから軌道修正できれば、ビジネスパーソン
として何より大切な周囲の信頼を得られるだろう。
この記事を最後まで見てくださったあなたは、
ぜひ、会社や上司を否定するだけで終わらず、
関係性を築いて、会社にとって
いなくてはならない存在を目指してください。
勝手に昇進して、勝手に昇級して、
いい話が舞い込んできてしまいます。
それでは最後におさらいしましょう。
1 技術的問題と適応課題
ビジネスの現場で生じる課題には2つのタイプがある。
1つは、既存の方法で解決できる「技術的問題」
もう1つは、既存の方法では解決ができない、
複雑で困難な「適応課題」
適応課題には、次の4種類がある。
ギャップ型、対立型、抑圧型、回避型
2 関係性の溝に橋を架ける4つのプロセス
関係性の溝に橋を架けていく
「対話」の4つのプロセスは、
準備・観察・解釈・介入から成り立ちます。
対話によって新しい関係性を構築していきましょう。
3 対話の実践
立場の弱い側は、
立場の上の人間を一方的に悪者にする
「正義のナラティヴ」という罠に陥りがちです。
部下からすると、上司や会社の方針が
偏って見えていると思います。
一方、上司から見れば部下が偏って見えます。
軌道修正して、ビジネスパーソンとして
何より大切な周囲の信頼を得ていきましょう。
著者 宇田川 元一(うだがわ・もとかず)
経営学者。埼玉大学 経済経営系大学院 准教授。1977年東京生まれ。2000年立教大学経済学部卒業。2002年同大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。2006年明治大学大学院経営学研究科博士後期課程単位取得。
2006年早稲田大学アジア太平洋研究センター助手、2007年長崎大学経済学部講師・准教授、2010年西南学院大学商学部准教授を経て、2016年より埼玉大学大学院人文社会科学研究科(通称:経済経営系大学院)准教授。
社会構成主義やアクターネットワーク理論など、人文系の理論を基盤にしながら、組織における対話やナラティヴとイントラプレナー(社内起業家)、戦略開発との関係についての研究を行っている。
大手企業やスタートアップ企業で、イノベーション推進や組織変革のためのアドバイザーや顧問をつとめる。
専門は経営戦略論、組織論。2007年度経営学史学会賞(論文部門奨励賞)受賞。
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