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文というハンドルネーム、さわむら蛍というペンネームで書いていた作文をブラッシュアップしてまとめています。
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#そんな日のアーカイブ

キルトに寄せて 〜そんな日のあたしのアーカイブ〜

キルトに寄せて 〜そんな日のあたしのアーカイブ〜

♡おんなたちの旅

友人のキルト展で、見事に並んだパッチワークキルトの大作を眺めながら、それに費やされた時間を思った。それに向き合うおんなのひとの気持ちを思った。

完成するまでの長い長い時間、日々は明け暮れ、晴れた日ばかりでなく、額が曇る日もあったにちがいない。

こころ晴れやかな日、その単純な作業の繰り返しのなかで、どんな光景を思い出していたろうか。頬に笑みなど浮かべたろうか。

沈みがちの日

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そんな日のアーカイブ 2003年の作家たち 2   高橋源一郎

そんな日のアーカイブ 2003年の作家たち 2   高橋源一郎

まことに失礼なことながらこのかたを見るたびに「そらまめに似ている」と思ってしまう。

そらまめ、あたし自身はすこぶる好物なのである。茹でてみれば窮屈な皮のなかはホクホクとまことに心安らかなるあじわいではないかとひとり思っている。

その類似は高橋氏の顔の輪郭からの連想なのだが、このかたもけっこう分厚い皮を身に着けておられるような気もする。つまりシャイなおかたである。まあ、一筋縄ではいかない感じとい

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そんな日のアーカイブ 2003年の作家たち 1 古井由吉

そんな日のアーカイブ 2003年の作家たち 1 古井由吉

2003年7/28〜8/2まで、東京・有楽町よみうりホールで開かれた日本近代文学館主催の公開講座「第40回夏の文学教室」に参加し「『東京』をめぐる物語」というテーマで、18人の名高い講師の語りを聞きました。

関礼子・古井由吉・高橋源一郎
佐藤忠男・久世光彦・逢坂剛
半藤一利・今橋映子・島田雅彦
長部日出男・ねじめ正一・伊集院静
浅田次郎・堀江敏幸・藤田宣永
藤原伊織・川本三郎・荒川洋治

という

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そんな日のアーカイブ 川本三郎講演 下町の感受性 宮部みゆき原作 大林宣彦作 「理由」

そんな日のアーカイブ 川本三郎講演 下町の感受性 宮部みゆき原作 大林宣彦作 「理由」

読売ホールで川本氏にお会いするは3回目。声や口調や話の流れがだんだん親しいものになってくる。

*****

今回のテーマである「愛」は苦手なジャンルだ。
この講演依頼を断ろうとさえ思ったほど、興味がない。しかし、ひろく愛ということを考えると家族愛も含まれるだろうと思った。

そういう意味では宮部みゆきさんも恋愛に重きを置いていない珍しい女性作家である。そういうタイプの女性作家は他に小川洋子さんと

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そんな日のアーカイブ 藤田宣永講演 「雪国」 恋愛の不可能性

そんな日のアーカイブ 藤田宣永講演 「雪国」 恋愛の不可能性

昭和12年に書かれた川端康成の「雪国」は、なかなか難問を抱えている、簡単にかかれた作品である。

島村はワキであり、駒子がシテである。恋愛小説はそもそも女が主人公である。(藤田氏夫婦の場合も小池真理子が主人公であり、藤田氏は脇役であるという)

恋愛小説に合うのはほとんど働かない男である。「源氏物語」やラクロの「危険な関係」の主人公は貴族である。

また青春と恋愛も馴染む。何もしない高等遊民も恋愛

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そんな日のアーカイブ 山本一力講演 江戸下町の人情

そんな日のアーカイブ 山本一力講演 江戸下町の人情

「山本でごさいます。今日は女性が多くて、わくわくしながらもまたこわいことでもあります。
わたしは昭和23年生まれです。20代はじめ旅行会社に勤めているときに結婚しまして、不実の限りを尽くしましてそれを2度もやりまして、3度目で今の家内にあってまともになりました」

山本氏はそんな口調で話し始めた。

*****

「愛」をめぐる物語なんて、こんな大きなタイトルの話はできない。惚れたはれたの小説の何

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そんな日のアーカイブ 馬場あき子講演 「日本の恋の歌」

そんな日のアーカイブ 馬場あき子講演 「日本の恋の歌」

まことに大きな題である。いつかやりたい大きなテーマではあるのだが、今日は近代の恋の歌に話を絞る。

落合直文という歌人がいる。

地味なぱっとしない歌人である。彼が44,5歳のころ、明治34年に作ったこんな歌がある

「かのひとの 目より落ちなば いつわりの 涙をわれは うれしとおもわん」

華やかな派手な情熱ではなく、身を引いたところで歌っている。今から思えばひどく斬新な感じがする。対象に距離を

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そんな日のアーカイブ 北村薫講演 惜別の歌と高楼

そんな日のアーカイブ 北村薫講演 惜別の歌と高楼

対談をした。怪談だとか妖怪だとかいう話だった。やがてぬかるみの話になって、ぬかるみのぴちゃという音は妖怪が通っているようだと話していた。そこからにゅっと手がでてきそうな気もするなどと。
    
夏目漱石の「永日小品」のなかの「蛇」という作品に

木戸を開けて表へ出ると、大きな馬の足迹(あしあと)の中に雨がいっぱい湛(たま)っていた。土を踏むと泥の音が蹠裏(あしのうら)へ飛びついて来る」

という

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そんな日のアーカイブ 荒川洋治講演 ことばと思い

そんな日のアーカイブ 荒川洋治講演 ことばと思い

(荒川さんの肩書きは詩人ではなく「現代詩作家」である)

昨年9月「怒涛の読書」をした。いっぱい本を読んだ。寝食を忘れて読んだ。もうどんな長いもんでも持ってこいの気分だった。

藤村の「夜明け前」も二週間くらいで読んだ。若杉慧の「エデンの海」はつまらなかった。夏目漱石もいっぱい読んだ。一カ月かかって「明暗」以外をほとんど読んだ。トーマス・マンの「トニオ・クレーゲル」も読んだ。

「忘れえぬ人々」と

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そんな日のアーカイブ 玄侑宗久講演 「宮沢賢治における修羅と慈悲」

そんな日のアーカイブ 玄侑宗久講演 「宮沢賢治における修羅と慈悲」

仏教において愛は良い言葉ではない。それは妄執である。仏教で愛に相当するのは慈悲である。

「宮沢賢治を論じるのは猛獣が入っている檻に入っていくようなものだ」と言われている。それほど賢治を愛する人は多く、「わたしの賢治」となっているから、迂闊なことはいえない。

しかし、賢治の父親の政次郎さんは賢治の死後たずねてきたひとには「賢治を知りたいなら仏教を勉強してください」と言っていた。(だから玄侑さんは

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そんな日のアーカイブ 瀬戸内寂聴講演 文学館への期待

そんな日のアーカイブ 瀬戸内寂聴講演 文学館への期待

徳島県立文学書道館館長としては、はじめての講演なので緊張している。控え室で胸がどきどきした。ダラダラ話すものだから50分が短いので心配だ。聴衆がインテリ顔だから圧迫感を感じている。

自分が文学館館長を引き受けるとは夢にも思わなかった。有名な文人が徳島にはいないと思っていた。徳島の看板になるような有名人は派手なひとはいないのであまり知られていない。徳島の人や子供が故郷に文人がいないと思うのはかわい

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そんな日の東京アーカイブ 尾山台 すごいおやじがいたもんだ。

そんな日の東京アーカイブ 尾山台 すごいおやじがいたもんだ。

大井町線の尾山台駅近くにあった「田園」というお店のおやじさんのこと。今は弟子だった安齋さんが「田園 安齋」として営業されているそうだ。

安齋さんは実直そうなひとだった。栃木のかただったろうか。髪の毛で文句言われたくないから、坊主にしてんだよ、って言ってたな、なんて思い出す。

お店では砂糖を一切使わないっておやじさんはいってたけど、甘みが欲しい時はほんの少しだけど、寿司の素の粉末を入れることがあ

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そんな日のアーカイブ 辞書を買った日のこと。

そんな日のアーカイブ 辞書を買った日のこと。

高名な編集者さんお奨めの辞典 のうちの一冊
「現代俳句言葉づかい辞典」なるものを買った。

俳句を作ろうという、センスも気合もないし
その方面の知識など皆目なのだが、このタイトルの前についてある言葉「ことばの海を掬うための」ということばがいいなと思った。

なにしろ言葉数は多いに越したことはないというのが最近の実感で、本書は、それも名詞ではなく
その名詞にふさわしい動詞、形容詞が俳句を用

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そんな日の東京アーカイブ 銀座2007年の写真展

そんな日の東京アーカイブ 銀座2007年の写真展

一枚の写真に泣かされた。 ぽろぽろと流れた涙を
うまく誤魔化せなくて・・・こまった。

写真は駅の構内を写す。 列車は今しも出発しようとしている。旅立つひとびとは窓から身を乗り出して手を振っている。見送るひとびともまた手を振る。

右手前でもスカーフを頭にまいた中年の女性が
ふわりと手を上げている。その女性の表情がわたしを泣かせる。

送り出す身の寂しさもあるが、大切なひとの未来を案じる

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