マガジンのカバー画像

ショートストーリー保管庫

5
書き留めた創作を保管しております
運営しているクリエイター

記事一覧

『ショートショート』「いつものとおりに」

『ショートショート』「いつものとおりに」

朝いつものように目が覚める。しかし、何かがちがうような気がする。まるで誰かから見られているような感じなのだ。 

いつものように顔を洗い、服を着て、仕事場に向かう。通りを歩く人たちも満員電車の中の様子もいつもと同じだ。寸分違わず。

ん?寸分違わず?何かおかしくないか。これまで感じたことがないことばかり。

目の前を歩いていた男が突然倒れた。ひどく苦しんでいる。

「おい大丈夫か」
声をかける前に

もっとみる
『ショートショート』「鏡」

『ショートショート』「鏡」

じっと見られているような気がした

気になったので振り返る

鏡には振り返る自分が写っていた

「なんでもないよな」とつぶやく

また、見られているような気がする

振り返ると自分が見ている 

なにもおかしくはない 

だけど

変なことを思いついた

フェイントをかけてみようか

テレビでもあるまいしなどと考えながら

ゆっくりと振り返り

すぐ前を向いて

もう一度素早く振り返る

「あっ」

もっとみる
僕が彼女のどこに惹かれているのかということについて

僕が彼女のどこに惹かれているのかということについて

少し首を左にかたむけ、左手の人差し指で唇を触りながら、紙面を追う。集中しているときの彼女のくせ。

「この話って不思議だね」紙面に目を落としたまま、話しかけるようにつぶやいていた。
「何が不思議なんだい」僕は彼女の問いにはすぐに答えることにしている。
「こんなことは普通ありえないよ」と彼女は言った。
「そうなんだ」僕も言った。
僕は『この話』がどのような内容なのかはわからない。
でも僕に目を向ける

もっとみる
昭和とアナログ

昭和とアナログ

夢を見ていた。

そこでは何もかもが変わっていた。私の机はとても大きかった。立派なひじ掛けのついた大きな椅子に座っていた。椅子に深々と腰かけていた。何も悩むことはない、悩むことはなんにもない・・・そう思いながら、私はよく晴れた空を見上げていた。

そこから先に進まないのである。

なぜかどうしても進まないのである。夢は実現出来ると人は言うけど、寝ているときに見る夢はどうなのだろう。夢だと気づくのは

もっとみる
待たせてごめんね

待たせてごめんね

改札を通り抜けるとすぐに海が目に入った。流れは穏やかで、船もゆっくりと行き交う。向かいの島は泳いでも渡れそうなくらいに近い。工場のクレーンがぐるりと旋回しているのがはっきり見えた。

歩く間、海はずっと視界から消えることはない。映画館が最近できた。駅前の便利な所にあり人の出入りも多い。
横目に見ながら急いで歩く。海沿いの道の突き当たりに波止場がある。
約束の時間に間に合ったぼくはベンチに座り乱れた

もっとみる