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ハードボイルド書店員が「今年の夏」にやりたいこと

↑を読んで思い出したことがあります。

以前勤めていた町の本屋で、8月の頭に店長が「はだしのゲン」文庫版を全巻注文していました。しかもコミックコーナーではなく、日本史の棚に展開したのです。

ほとんど売れませんでした。でも棚を見ながら「これでこそ書店」と胸が熱くなりました。

そのお店は閉店してしまいました(のちに他の場所で再オープン)。在籍していたのは短い期間ですが、多くのことを学びました。

本の重さで紙袋の底が抜けないように敷く長方形のボール紙わかりますか? 大型書店ではセロテープやホッチキスの針と同じく、当たり前に常備されています。蛇口を捻れば水が出る感覚で手にできる。しかしその書店ではハンドメイドでした。暇な時間に(平日の夜が多かった)ダンボールの板を型紙に沿ってカッターナイフで1枚ずつくり抜くのです。

最初はショックでした。「こんなことまでするのか」と。でもおかげで備品の大切さを教わった気がします。

本を大量にストックしているだけで店の経営が圧迫されることも痛感しました。「もっと在庫を減らさないと来月の仕入れができない!」という社長のメールが月末の恒例行事だったのです。

ただ「とにかく返せばいい」って話でもない。

気を利かして棚をスカスカにする。今度は店長に「貧相に見えるからやめて」「それじゃ売れない」と注意される。↓を返品しようとして「たしかに1年に1冊出るかどうかだけど、版を重ねているいい本だから」と止められたこともあります。

生き延びるためには時代に合わせた変化が不可欠。十分承知しています。一方で愚直に守りたいもの、意識して残したいものもたしかにある。何でも変えればいいわけじゃない。新しい方が常に正解とは限らない。

今年の夏は、私も日本史の棚に「はだしのゲン」を全巻置こうと思いました。

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