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「いま読みたい文庫」と「祭りの予感」

数日前、店に入荷した段ボール箱を開けたら新潮文庫の新刊が詰まっていました。さっそく↓を見つけ、「おっ」と声を上げました。

「書物の森で、酒場の喧騒で。沢木耕太郎が出会った19人」ですって。カッコよくないですか? 沢木さんの文章はリズムや長さ、語彙のチョイスなどとにかく全てが理想的。美しいとか巧いとか読み易いではなく、ただただ素朴でカッコいいのです。

↓にも目が留まりました。

1965年に公開されたジャン=リュック・ゴダール監督の同名映画は「ヌーヴェル・ヴァーグ」(フランス語で「新しい波」)の代表作として広く知られています。私も学生時代に夢中になりました。「勝手にしやがれ」「はなればなれに」、そしてこの「気狂いピエロ」は何度見たかわかりません(ちなみにゴダールに興味を持ったキッカケは2004年に刊行された↓です)。

「文学の次が音楽だ」「私どうしたらいいの? 何したらいいのかわからない」などの忘れ難いセリフ、そして余韻が永遠に続きそうなラストシーンは原作でどう描かれているのでしょうか? 

余談ですが、3.11震災時に今作のDVDを紛失しました。落ち着いてから↓を買い直したのですが、翻訳で気になる点があり、一度しか再生していません。読了したら久し振りに見てみます。

震災、と書いて思い出しました。1995年の阪神・淡路大震災が投影された村上春樹の短編集「神の子どもたちはみな踊る」の冒頭で、映画「気狂い~」のセリフが引用されています。

「一一五名戦死というだけでは何もわからないわ。一人ひとりのことは何もわからないままよ」「妻や子供がいたのか? 芝居より映画の方が好きだったか? まるでわからない」

心の底から同意します。ひとりひとりが人生の主人公で、なおかつ代替不能な唯一無二の存在。なのに無機質な数字の羅列に置き換えられ、膨大なニュースの中のわずか数行に収められてしまう。あまりにも無情です。

7年前に読書メーターへ書いた「神の子どもたちは~」のレビューを紹介させてください。

「大事な物はいつか唐突に失われるかもしれない。平穏な時は永遠には続かない。でもそれを守る為に人知れず戦う『かえるくん』がいる」「だから踊り続けよう。心に抱える闇や獣と向き合おう」

過去の自分に背中を叩かれた気がします。戦争や災害は決して他人事ではない。誰の身にも起こり得るし、社会の至るところに勃発の可能性が潜んでいる。だからこそ逃げずに向き合い、できることをやっていきたい。その積み重ねで己が少しでも前に進めば、世の中も連動して少し良くなる。なぜなら誰もが間違いなく世界を構成する一員だから。

新刊ではないけど、これも自分の中で「いま読みたい文庫」です。

というわけで、5月は「新潮祭り」の始まる予感があります。よかったら皆さまもぜひ。どうぞ充実したGWをお過ごしくださいませ。

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