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「書泉グランデの大成功」と「潜在的な欲を一歩先回りした一冊」

素晴らしい。

過去に同趣旨のフェアをやっていて勝算があるとはいえ、重版未定本の復刊を出版社に掛け合う。しかも返品不可の買い切りで300冊。売れ残ったら大損害です。

事後承諾で会社に認められたのは、件の書店員さんの目利きと実績、そして能力(販売計画をロジカルに社長へプレゼンできる点も含め)に対する信頼ありきでしょう。昔の職場で似たようなことを勝手に始めて大失敗し、知らん顔で流す同僚がいました。誰がやっても上手くいくような甘い案件ではないことをまず理解していただきたい。

ちなみに話題の本はこちら。

当たり前ですが、長年愛されている良書を仕入れても必ず動くわけではありません。今回みたいにSNSで重版に至る経緯がユーモラスに紹介され、バズったとしても売り上げに繋がるとは限らない。書泉へ頻繁に足を運んでくれる人たちの最大公約数的なニーズを掴んでいた。これが大前提です。

学生時代、いわゆる「剣と魔法の世界」を舞台にしたファンタジー小説を書いたことがあります。そのための参考資料を求め、まさに神保町の書泉へ通いました。もし当時「中世への旅~」の存在を知っていたら間違いなく購入したはず。

↑の記事を見る限り、やはり同様の目的で買われた方が多いようです。私みたいにかつてそういう本を探していた人がSNSを見て興味を惹かれたケースも少なくないでしょう。

今回のエピソードからひとつ学びました。「リスクを取れ」「熱意があれば必ず結果は出る」みたいな精神論めいたものではなく「お客さんの潜在的な欲を一歩先回りした選書」の有効性です。

通常フェアを仕掛けるには上の了承を要します。手間と時間がかかる。正社員ならまだしも、レジなどの末端業務が中心の非正規にはハードルが高い。でも一冊の棚差しや数冊の面陳ならすぐにできる。

少し前から「思想・哲学」の棚に↓を置いています。

ドイツの文豪・カフカが残した絶望フレーズの数々。「強さはなく、弱さはある」「Aは階段を一気に五段あがっていくのに、Bは一段しかあがれません。しかし、Bにとってその一段は、Aの五段に相当するのです」など。読むとなぜか力が沸いてきます。自分だけじゃない、と感じられるからでしょうか。

本来のジャンル分けに従うなら文芸書。すでに文庫にもなっている。しかし「この内容なら、哲学の棚に何かを求めるお客さんにこそ相応しい」「文庫のカバーデザインはポップ過ぎて合っていない。単行本の方が手に取りたくなる」と判断しました。おかげさまでコンスタントに売れています。

誰かの大成功を上辺だけ真似ても大やけどするだけ。自分に適したやり方に変換し、無理のない現実的な形へ落とし込む。むやみに博打を打たず、成果を少しずつ積み上げればいい。そう思っています。

改めて書泉の店員さんに対し、心からの賛意と敬意を送らせてください。励みになりました。ありがとうございます。

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