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「失われた時を求めて」を巡る冒険②

数日前に↓を読了しました。

まさに名作文学。人間描写の厚みというか、誰もが秘める二面性のリアリティが素晴らしかったです。たとえば貴族に批判的でありつつ、実はいわゆるスノッブ(上級国民に憧れ、連中の真似をしたがる俗物根性みたいな意味)の顔も持つルグランダン。しかし語り手は、彼を不誠実な人物とは考えていません。

ルグランダン氏がスノッブを糾弾したとき、自分の気持に正直でなかったというわけではない。自分がスノッブだとは、すくなくとも自分では認識できていなかったからである。

「失われた時を求めて1 スワン家のほうへⅠ」プルースト作 吉川一義訳 岩波文庫 286P

ルグランダンもスノッブの一員だとわかっていたのは、他人だけである。

同287P

己のウィークポイントや課題を、案外自分がいちばんわかっていない。

権威を批判し、前例踏襲主義を叩く人が、自分も周りの人間や部下に対して居丈高に振る舞い、固定観念に囚われぬ若い世代のチャレンジに水を差している。そんな光景を目にしたことはありませんか? 私はあります。大学でも職場でも。

自分自身も例外ではありません。最低賃金で働く非正規書店員として「末端からの業界改革」をしばしばnoteで訴えています。でも新人が前例のないアイデアを持ってきたときに「無理無理」とろくに話も聞かず一蹴したケースがなかったとはいえない。末端から変えようと言いつつ、己より下の立場にいる者を無知で未熟と見下していなかったか? 

よく評されるように「失われた~」は難解です。しかし頭に入ってこない箇所は軽く流し、辛抱強く読み進めていけば、日頃うやむやにしがちな何かの真実を抉り出す一文に出会い、雷に打たれる感覚を味わえるはず。当時のフランスといまの日本で文化や生活習慣や諸々がどれほど異なっていても、各々の人間が持つ性質や考え方はさほど変わっていないのかもしれない。

2巻も楽しみです。

なお、全14巻を読むに当たり、ふたつのルールを設けています。

1、1冊読み終えてから次の巻を買う。
2、すべて異なる書店で購入し、各々のブックカバーをかけてもらう。

1巻はリブロ、2巻は↓で購入しました。

神保町で本を探す際は、どうしても書泉や東京堂書店といった巨大なお店を利用しがち。でも初めて入ったこちらも素晴らしい空間でした。「カフェ」ではない「喫茶店」と書店の融合。また行きます。

「失われた時を求めて」皆さまもぜひ。

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