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「敬意」と「損得勘定」

数年前、某評論家が「メダルを噛むのは品がない」という発言をして「選手だってやりたいわけじゃない。メディアがやらせるんだ」と反発を受けたことがありました。まあ勝ち取った勲章を所有者が噛むのは自由ですよね。でも他人の獲ったメダルを部外者が自発的に噛む行為は想定外でした。

プロレスラー・鈴木みのる選手の経営するアパレルショップ「パイルドライバー」が原宿にあります。みのる選手が王者で彼が来店しているときはベルトが飾られます。

チャンピオンベルトを至近距離から眺めたことありますか? テレビ中継や動画の中では眩く輝いていますが、近くで見ると「必死に勝ち取ったんだな」という歴戦の重みが伝わってきます。プレート上のちょっとしたキズや革の部分の汚れから。

数年前、みのる選手が新日本プロレスのNEVER無差別級王者だったときに買い物をしたところ、レジを打ってくれた方(梅木さんかな?)が「よろしければベルトを持ってみのるさんと撮影できますよ」と勧めてくださいました。

普通は「ぜひ!」となるのでしょう。私はムリです。絶対ムリ。「畏れ多いです!」と辞退しました。みのる選手と一緒に写真は撮ってもらいましたけどね。

いまはこういうご時世ですから、さすがにベルトを持つことはできないでしょう。でもそもそもコロナとか関係なく、人が一生懸命頑張って獲得した勲章に部外者が軽々しく触れていいものでしょうか?

今年引退を決めた松坂大輔投手は、2019年春季キャンプでファンから右腕を引っ張られて肩を痛め、以後勝ち星を挙げられませんでした。あれも同じです。投手の利き腕は大切な商売道具。不用意に触るのは敬意が足りない証かと邪推したくなります。あるいは「俺らのおかげで成功したんだからそれぐらいはいいだろ」という傲慢さの発露かも。

もしメダリストが「どうぞメダルに触ってください」と言ってくれても「こんなチャンス二度とない!」と我欲を剥き出しにせず「いえそんな」と丁重に身を引く。そういう損得勘定を超越できる奥ゆかしさを日本文化の美点だと思うのは時代錯誤でしょうか?

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