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「知行合一」を体現する58歳

泣けました。流行りの言葉を拝借するなら「よもやよもや」です。

3年前、両膝に人工関節を入れたことでムーンサルトプレスを封印した武藤選手。後ろ向きでコーナーに上がったとき、PCの前で「よせ!」と叫びました。「素材の金属に負けて骨が折れてしまうから二度とやらない」と話していたのに。。。

と同時に「いや、構えだけで結局飛ばないから」「要は期待感を煽る様式美」「これもプロレスの『魅せる技術』だよね」という世間ずれし過ぎた冷静な己がいたのも事実。30年以上ファンをやっていれば自ずとそうなるのです。

だから次の展開で言葉を失いました。「え」って。本当に飛ぶとは。いやいやいやプロレスができなくなったら、そもそも歩けなくなったら。。。

決死の覚悟で出した奥の手は、しかし無情にもカウント2で返され、膝を押さえて動けなくなる武藤選手。そこへ丸藤選手が猛ラッシュを仕掛け、最後は新兵器の虎王・零。見事な逆転勝ちを収めました。

丸藤選手、おめでとう。でも頭の中は武藤選手のことでいっぱいでした。なぜ? なぜここまでするのか。しかも負けてしまうなんて。

まるで彼がこのコロナ禍の社会に充満する世の理不尽を一身に背負ったかのように感じました。こんなに頑張ってもダメなのか、と。

結果だけ見れば武藤選手はタイトル戦に敗れ、王座を失いました。58歳。シングルでベルトを巻くのはこれが最後かもしれない。でも負けてなお今年最大級のインパクトを残しました。膝が、いや今後の人生そのものが壊れるハイリスクを引き受け、誰ひとり予想しなかったムーンサルトプレスを勝つために敢行してみせた。その勇気と決断に何も感じなかったら嘘でしょう。

今この瞬間を全力で生きる。目の前のことにベストを尽くす。勝てるチャンスが1%でも残っているなら、最後まで諦めない。

西郷隆盛や大塩平八郎らが傾倒した陽明学に「知行合一」という教えがあります。「知識と行動は表裏一体」「実践を伴わなければ知っていることにならない」という意味です。武藤選手が身体を張って「こういうことだよ」と示してくれました。忘れません。ありがとうございました。

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