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小説「星の王子さま」(河野万里子 訳)を読んで

この本を手にとったのは緊急事態宣言が発表された日だった.テレワークの仕組みが整っていなかった弊社は,とりあえずの自宅待機が命じられたのである.

せっかく時間があるならと,本屋で暇つぶし用の本をいくつか見繕っている中で「星の王子さま」が目に入った.世界的ベストセラーなのは知っていた.挿絵にも覚えがあった.しかし恥ずかしながら今まで手にとろうと思ったことがなかったのである.そんな多くの人が読んでいるのなら,わざわざ自分が読む必要はない,という思いがあったのだ.

でもその日はなんか目が離せなかった.最近長く本も読めないし,軽く読めるようなのが一冊あってもいいかぐらいの感覚だった.

この話では,主人公・僕がサハラ砂漠に不時着し,不思議な男の子と出会ったときのことを回想する.男の子は,地球ではない,よその”星の王子さま”であった.主人公はその王子様から,王子様がいた星のことや地球にたどり着くまでに旅した他の星の話を聞くのである.

読み終わって,私はすぐに,この話が世に出た年を調べてしまった.本書は現在を書いたのではないかと錯覚に陥ってしまうほどに,今の"おとな"たちが,1940年代に書かれた本の中にいたのである.そんな時代に左右されない本質的なことが,この本書の中には詰まっていたのである.

中でも、私が印象に残っているのがキツネの台詞だった.王子が献身的に世話をしてきた星唯一のバラが,地球にはいくらでも咲いていたことに王子はショックを受けるである.しかし自分が見てきたバラと,地球に咲いているバラは全く違う存在だと気づいたときに,キツネが言うのである.

「きみのバラをかけがえのないものにしたのは,
きみが,バラのために費やした時間だったんだ.
(中略)
きみは,なつかせたもの,絆を結んだものには,
永遠に責任を持つんだ.」

私はこれらの文章を読んで頬を打たれたような衝撃を受けた.

バラは他の人にとっての家族だったり,恋人だったり,はたまた仕事だったり,趣味だったりするだろう.似たような存在はいくらでもあるし,最初から自分にとって完璧と言えるものはそうない.でもそれらを特別に思えるのは,かけた時間だったり手間の末だったりする.そしてそう思えるようになるのは,自分自身の努力でしか成りえないのだと.

そして,大切にした結果,相手からも想われるようになったのなら,刹那ではなく一生を背負う覚悟が必要なのだと.

私は人付き合いにしても,趣味とかにしても,ある一定のラインでスパッと線を引いてしまうところがあった.これ以上立ち入ってはいけないと.
でもきっとそれは,それほどまでに向き合う勇気もなかったし,その後に責任が持てないと,知らずのうちに諦めてしまっていたのだ.

そんな自分の弱さを,眼前に突きつけられた気がした.

もっと早く読んでいればと思わずにはいられなかった.
けど今だからこそ,こうして気付くことが出来たんだろう.

必要なときに必要な本と出会うんだなと,この読書を通して改めて気付かされたのである.

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