マガジンのカバー画像

【マガジン】月の砂漠のかぐや姫

337
今ではなく、人と精霊が身近であった時代。ここではなく、ゴビの赤土と砂漠の白砂が広がる場所。中国の祁連山脈の北側、後代に河西回廊と呼ばれる場所を舞台として、謎の遊牧民族「月の民」の… もっと読む
運営しているクリエイター

#砂漠

「月の砂漠のかぐや姫」登場人物等紹介

「月の砂漠のかぐや姫」登場人物等紹介

「月の砂漠のかぐや姫」は、今でない時、ここでない場所、人と精霊の距離がいまよりももっと近かった頃の物語です。「月から来たもの」が自らの始祖であると信じる遊牧民族「月の民」の少年少女が、ゴビと呼ばれる荒れ地を舞台に、一生懸命に頑張ります。
 物語世界の下敷きとなっている時代や場所はあります。時代で言えば遊牧民族が活躍していた紀元前3世紀ごろ、場所で言えば中国の内陸部、現在では河西回廊と呼ばれる祁連(

もっとみる
月の砂漠のかぐや姫 第58話

月の砂漠のかぐや姫 第58話

「なるほど。留学の方でしたか。申し遅れました、私は、交易隊の護衛隊の頭で冒頓(ボクトツ)と呼ばれるもの。これらは私の部下のものたちです。しかし、その留学の証ですが‥‥‥。失礼ですが、それを確かめさせていただくことは、できるのでしょうか」

 留学の徒は、各部族の指導者の卵と認められた若者です。冒頓と名乗った男の口調は、自然に改まったものに変わりました。しかし、冒頓は、どこかこのような事態を楽しんで

もっとみる
月の砂漠のかぐや姫 第53話

月の砂漠のかぐや姫 第53話

 苑が放ったそれは、自分たちに弓を構えた野盗という一つの危険を取り除いたものではありましたが、さらに大きな危険を呼び寄せるものでもありました。つまり、今まで奇妙な膠着状態に陥っていた場が、とうとう動き出してしまったのでした。

「やりやがったなっ」
「こいつら、絶対生かして返さねぇ」
「行け、行け、行けぇ」
「こ、ここ、こんなにゃろうぅっ」

 野盗たちは、一斉に二人に向って走り出してきました。野

もっとみる
月の砂漠のかぐや姫 第52話

月の砂漠のかぐや姫 第52話

 しかし、苑と空風のために、山襞の陰に潜んでいた野盗は見つけられてしまいました。
 野盗たちが、今回の不意打ちは失敗かと落胆していたところに、思いもかけず少年たちが狭間に駆け込んできたのです。せめてもの腹いせに彼らを打ちのめしてやろうと、馬を引いていた野盗はこの二人を追いかけました。そして、斜面で待ち構えていた男達も、二人を挟み撃ちにしようと斜面を駆け下りました。
 ただ、それを予想していたのでし

もっとみる
月の砂漠のかぐや姫 第32話

月の砂漠のかぐや姫 第32話

 そして、羽が選択した言葉は、正確に竹姫の心の中心を貫き通したのでした。
 「竹姫」。この言葉を羽が口にしたことが、これまでにあったでしょうか。いいえ、羽はこれまでにこの言葉を口にしたことは、一度もありませんでした。
 それは竹姫を人々の中から排除する言葉、彼女を追い詰める言葉であることを、羽は幼少の頃から認識していたのですから。
 そのため、二人がどんなに喧嘩をした時でも、羽が竹姫を呼ぶ言葉は、

もっとみる
月の砂漠のかぐや姫 第31話

月の砂漠のかぐや姫 第31話

 二人だけの秘密。羽はそう言いました。二人だけの秘密。何かが、頭の奥の方、意識の底の方で、明滅しています。
 でも、それが何なのか、今の竹姫には判りませんでした。その明滅しているものが何かを確かめるため、どうやってその場所まで辿り着けば良いのかが思いつかないのでした。
 実は、竹姫は覚えていなかったのです。
 逃げた駱駝を探しに、羽と共にバダインジャラン砂漠に行ったそうなのですが、その出来事は自分

もっとみる
月の砂漠のかぐや姫 第30話

月の砂漠のかぐや姫 第30話

「むう、おおげさだなぁ。二人で夜に駱駝を探しに行ったときに夜風に当たったせいで、風邪を引いただけじゃない。高熱で気分が悪くなって動けなくなっていたところを、大伴殿に助けられたんでしょ。それは・・・・・・、わたしだって、寝込んじゃった羽のことが、すごく心配だったけどさ」

 少し恥ずかしそうに下を向きながら、羽の身体を心配していたことを告げる竹姫でした。
 でも、その言葉の後ろ半分は、羽の耳には届い

もっとみる
月の砂漠のかぐや姫 第29話

月の砂漠のかぐや姫 第29話

「あ、ああ」

 予想もしなかったほどの羽の勢いに少し気圧されながら、有隣は答えました。

「竹姫は、次の日にはもう目を覚まされていたよ。どこにも怪我はされていないし、羽が心配することはないよ」

 そうです、大伴が羽と共にバダインジャラン砂漠から連れ帰ってきた際には、竹姫はぐったりとして意識がない状態だったのですが、その次の朝には、無事に目を覚ましていたのでした。
 そのため、最初は羽のことを酷

もっとみる
月の砂漠のかぐや姫 第4話

月の砂漠のかぐや姫 第4話

 幸いなことに、竹姫は、村人みんなに見守られながら、健やかな少女へと成長しました。
 親代わりの翁の目から見ても、その姿の麗しいことは暗い夜の中で草原を照らす満月のよう、その声の清らかなことはオアシスに湧きでる祁連山脈の雪解け水のようでした。
 また、竹姫は、とても人々に愛されていました。竹姫のように「神の子」、「月のお使い」とされる存在は、月の民の他部族にもおりました。でも、一般的にそれらの「巫

もっとみる
月の砂漠のかぐや姫 第3話

月の砂漠のかぐや姫 第3話

 村の中心にある広場では、大きな篝火が夜を焦がさんばかりに焚かれていました。
 讃岐村に貴霜族の遊牧隊が戻ってきて初めての夜で、村をあげての歓迎の宴が開かれているのでした。
 連れ戻ってきた羊などの家畜は村の外の仮柵に入れられて休息をとっていましたが、遊牧から戻った者たちや村人達は、お酒やご馳走を楽しみながら、大きな声で笑いあったり話し合ったり、また、抱き合ったりして、家族や友人との再会を大いに楽

もっとみる
月の砂漠のかぐや姫 第2話

月の砂漠のかぐや姫 第2話

 村人から尊敬を込めて翁と呼ばれる老人は、竹林で拾った赤子を白衣に包んで連れ帰り、大切に育てることにしました。
 でも、翁の妻も彼と同じ年頃でしたから、赤子に乳を与えることはできません。そこで、翁は、讃岐の村で最近子供を産んだ女を探し、乳母とすることにしました。見つかったのは、有隣(ユウリ)という名の女性でした。彼女は、讃岐の村が所属する貴霜(クシャン)族の大伴(オオトモ)という若者の妻で、ちょう

もっとみる
月の砂漠のかぐや姫 第1話

月の砂漠のかぐや姫 第1話

 昔々のその昔。
 遠い遠い国での物語です。
 その頃は、まだ、人と自然は共に在り、神々や精霊は身近に感じられるものでした。
 祁連(キレン)山脈の北側には、ゴビ砂漠、あるいは、単純にゴビと呼ばれる荒れ地が広がっていました。砂漠と言っても、すべての場所が砂に覆いつくされているのではありません。ほとんどの場所には、草がまばらに生えただけの荒れ果てた大地が広がっています。
 ゴビはごくわずかしか雨が降

もっとみる
月の砂漠のかぐや姫 はじめに

月の砂漠のかぐや姫 はじめに

(note版 はじめに)

 「月の砂漠のかぐや姫」は、僕が2018年4月頃から、はてなブログ等に投稿している、長編物語です。せっかくなので、noteにも投稿しちゃいましょう、ということでございます。年の始まりという、このせっかくの区切りを逃すと、もう二度とこの重い腰を上げる機会は訪れないような気がしますし。(^-^;
 内容は、既に投稿しているものから、基本的には変えません。(明らかな間違いは除

もっとみる