見出し画像

常識と常識【上野ステーションホステル オリエンタル1@上野駅】

 人間は常識にとらわれる生き物だ。例を挙げるなら「天動説」がそうだろう。ひと昔前の人類は、宇宙全体は地球を中心に回転していると思い込んでいた。
 もっと身近な例を挙げるなら、エスカレーターの乗り方は地域によって常識が異なる。東京で生活している人の場合は左側に立って右側にスペースを空ける習慣が染み付いているが、大阪は右側に立って左側のスペースを空けるし、僕が先日行ってきた名古屋では左右どちらに寄るのか統一されていないようだった。これだけでも、地域によって”常識”が違うことが分かる。

画像1

(※名古屋の思い出)

 しかし、科学が発達してからは誰も「宇宙は地球を中心に回っている」なんて言わなくなったし、エスカレーターの乗り方なんて「地域によって最適化されている」という認識が浸透してきたから、もはやどの乗り方が常識なのかを言い切ることもできない。

 つまり、常識すなわち「正しい」という話ではなく、常識とは「その時代、その場所において快適に生き抜くための”思い込み”」と言えるのかもしれない。自分の価値観や知識の範囲外の事象を前にして「そんなの非常識だ」と言う人もいるかもしれないが、たしかにそれは ”その人にとっての” 非常識なのだから、こちらとしては否定のしようがない。その人の常識と他の人の常識が違う、ただそれだけの話である。

 「常識」なんて、所詮はその程度のものだ。時間と場所が変われば一瞬で非常識になる。そこに正解や不正解があるわけではない。もしも、そこに正解や不正解が設けられるのであれば、それは常識ではなく「ルール」と呼ばれるようになる。

 とはいえ、自分が考える「常識」が自分だけのものであることに気づくためには、違う常識に触れて、さらに受け入れてみる必要がある。そして、そのような経験を通して人間は成長していくのではないだろうか。

 そういえば、最近また僕の中で一つの常識が覆されたことがあった。それは先日のドシー恵比寿に伺った時のことである。僕はこの時、人生で初めてホテルに宿泊予約をしながら宿泊せずに日帰りでチェックアウトをしたのだった。宿泊予約をしたら翌日にチェックアウトをするのが常識だと思い込んでいた僕にとって、この経験は革命的であり、これによってサ活の選択肢がいっきに広がったのだ。

 そして迎えた11月25日(水)、今日の天気は生憎の雨である。いくら晴れ男とはいえ、降る時は降る。こればかりは仕方がない。ただ、今日も僕は日帰りでのサウナ利用のために、あるホテルを ”宿泊予約” したのだった。

 そのホテルとは、上野にある「上野ステーションホステル オリエンタル1」である。

 オリエンタルとは、全国にホテル、温浴施設、飲食店などを展開する株式会社センチュリオンインターナショナルが運営するキャビン・ホステルブランドの一つである。「オリエンタル1」という店舗名から想像できるかもしれないが、この他にも同ブランドの「オリエンタル2」「オリエンタル3」が近隣に存在する。

スクリーンショット 2020-11-30 20.33.51

(センチュリオンホテルズ公式サイト: https://www.centurion-hotel.com/ )

 オリエンタルは以前から気になっていたのだが、今回はたまたま普段お世話になっている知人がオリエンタル1に宿泊する予定があることを聞きつけ、僕も予約をさせてもらったのである。
 その料金は通常税込3,500円のところGo To トラベル適用で税込2,275円になるだけでなく、さらに地域共通クーポン1,000円分までもらえるというお得感。このチャンスを生かさない手はなかった。

 上野駅に到着したのは14時過ぎ。ここに来るのは、つい先日ドーミーインに宿泊して以来だ。

画像3

 それにしても、サウナに興味を持ち始めてから行動範囲がかなり広がったものである。山手線でいうと上野駅の正反対側を生活圏としている僕にとっては、上野なんてサウナがなければ滅多に来ることがないエリアだ。すごいぞサウナ。

画像4

 改札を抜けて外に出ると、雨は少し弱まり、傘が要らない程度の小雨が降っていた。そのままアメ横方面に向かって歩くこと3〜4分で、今日の舞台が現れた。

画像5

「ここもパチンコ屋が併設されているなぁ……」

 カプセルイン大塚、マルシンスパ、レインボー新小岩、アスティル……。サウナとパチンコ屋がセットになる現象の謎は深まるばかりである。ちなみに僕が以前から気になっている「Smart Stay SHIZUKU」も、パチンコ屋を展開する大王興業株式会社が運営母体である。
 しかし、今日も「なんらかの大人の事情があるのだろう」くらいに思いとどまり、それ以上のことは考えることをやめた。

 さっそく中に入り、チェックインを済ませる。受付には「第三回日本サウナ大賞 情熱の施設賞」の賞状が飾られており、期待が高まった。

画像6

 指定されたカプセルがある5階までエレベーターで移動し、降りたところで靴を脱いだ。その靴はすぐ近くにあるロッカーにしまわなければならないらしく、靴を持った状態でロッカースペースまで移動し、そこで館内着に着替える。

 浴場に向かう前に念のため自分のカプセルを見に行くと、120cm幅の広々としたベッドが用意されていた。おそらく「スーペリア」というタイプだろう。一般的なカプセルと違って横向きに中に入ることができるので、出入りがとてもラクだった。

画像7

(オリエンタル1 公式: https://www.centurion-hotel.com/oriental_1/rooms/ )

「では、向かいますか」

 この時は特にカプセル内で過ごす予定が無かったので、そのままエレベーターで4階の浴場フロアへと移動しようと考えたのだが、ここであることに気付いた。

ーー室内履きは無い。しかしエレベーターには靴を履かなければ乗ることはできない。館内着を着ているのに、再び自分の靴を履いて移動しなければならないのだろうか……?

 そんな疑問を抱いたまま、ロッカーにしまった靴を履き直してエレベーターで4階へと向かった。しかし、僕はここで5分ほど混乱することになる。

「ロッカーはどこにあるんだ……?」

 エレベーターで4階に降りたところにあるロッカーは、全て鍵がかかっていて使用できなくなっているのだ。正直かなり焦った。
 実はあとで気付いたのだが、浴場への出入り口は「日帰り入浴客用」と「宿泊客用」の2種類があったのだ。基本的にエレベーターで4階に降りた場合の浴場の出入り口は「日帰り入浴客用」らしく、ここから浴場に入っても宿泊客用の鍵付きロッカーは存在しない。宿泊客が浴場を利用する場合は、カプセルフロアからエレベーターではなく「階段」を経由して4階に移動しなければならないのだった。
 ただし、これによってわざわざ靴を履くことなく素足のままカプセルフロアから浴場フロアへと移動することができるようになる。荷物もカプセルフロアのロッカーに預けたままで良いのだ。
 ちなみに、4階には浴場の奥に休憩スペースもあり、ここでリクライニングシートに身を委ねて棚に並んでいる漫画を読み漁ることもできる。

画像8

(オリエンタル1 公式: https://www.centurion-hotel.com/oriental_1/facilities/ )

 オリエンタル1の仕組みについて理解した僕は、靴を5階のロッカーにしまい直して階段経由で4階へと再び移動し、浴場へと向かった。
 脱衣所には先ほどのものとは別のロッカーがあり、脱いだ服をここにしまうことができるのだが、こちらのロッカーには鍵がついていないので貴重品はカプセルフロアのロッカーにしまっておく必要がある。

 服を脱ぎ、いよいよ浴室への扉を開けた。

画像9

(オリエンタル1 公式: https://www.centurion-hotel.com/oriental_1/facilities/ )

 さすがに14時台だからか、人もまばらで快適に過ごせそうだ。体を清めて、まずはお風呂に入ってみる。温度は42℃。ここもコスモプラザ赤羽と同様に人工のラジウム温泉とのこと。たしかに少し肌触りがなめらかな気がする。

 浴槽の突き当たりまで進むと主張の激しいボタンが設置されていた。そして僕の背もたれ部分には突起物が見える。「ジェットバスのスイッチか」、そう思ってそのボタンを軽いノリで押してみた。その時だった。

「ぼこっbここぼおこおぼぼbこkぼぼおぼこ!!!」

 まさかだった。てっきり僕の背もたれ部分からジェットが吹き出してくるのかと思いきや、それだけでなく浴槽全体に底から大量のバブルが湧き上がってきたのだ。

ーーマジかよ!!www

 正直ここでもかなり焦った。お風呂の中には僕の他にもお客さんが2人いたからだ。突然お風呂の底から大量の泡が吹き出してきたものだから、2人とも立ち上がってしまった。僕は僕でボタンを押してしまった手前、なかなかその場から離れることもできない。熱いお湯の中で冷や汗をかいた。
 なお、この大量の泡はその後も2分間ほど出続けたのであった。

 ようやく泡が止まり、僕は心を落ち着かせてからサウナへと向かった。サウナ室の前に置かれているレモン水で水分補給をしつつ、ビート板を1枚掴んで扉を開ける。

「すごっ……」

 中に入った瞬間、まず僕の目を引いたのはすぐ脇にあった特大サイズのikiヒーターだ。とにかくデカい。そして熱い。

画像10

(楽天トラベル: https://travel.rakuten.co.jp/HOTEL/78114/78114.html )

 2段目に腰をかけて、温度を確認すると102℃のカラカラ系。ikiヒーターの上にはオートロウリュの装置もあるようだけれど、どのタイミングで作動するのかはよくわからない。音ありのテレビに映し出されるのは国会答弁の中継。僕よりもかなり年上の方々がヤジを飛ばし合う。

ーーこの人たちこそ、サウナに入って落ち着いたほうが良いのではないだろうか。

 そんなことを考えながらボーッとしていると、さすが100℃超えというだけあって6分ほどで限界を迎えた。サウナ室を出て、近くのシャワーで汗を流してから水風呂にダイブ。

「くわああぁぁぁあああ〜〜〜!!」

 水温を見ると15.4℃。このくらい冷やされると、さすがにキマりやすい。1分ほど沈んだら徐々に意識が朦朧としてきた。ゆっくりと立ち上がって、いつも通り温かいお風呂で30秒ほど呼吸を落ち着かせてから、浴槽の隣にある ”ととのい椅子” へ。外気浴スペースこそ無いものの、窓から入ってくる風が心地よかった。

 その後も2セットをいただき、いったん浴室を出ようとしたところで張り紙が目に留まった。どうやら18時と20時にアウフグースが行われるらしい。もともとそこまで長居をする予定はなかったが、これは受けなければ。
 カプセルでの休憩を挟み、時刻は17時45分に。僕は再び浴場へと向かった。

 体を清めてお湯に浸かっていると、アウフグースが予定されている18時になっても混雑する気配はなく、待機列もできずに時間通りにスムーズに入室することができた。
 二段目に腰を掛けて待機をしていると、大きな団扇を持った男性スタッフがアロマ水を持って入室された。

「よろしくお願いします」

 と一言だけ発し、すぐにikiヒーターにアロマ水を掛けていく。大量の水蒸気が空気中に放たれ、僕に襲いかかってきた。

「アッッッッッッッッッツ!!!!!」

 なんだこれは、熱すぎる。皮膚が火傷したかと思った。必死に耐えようと、歯を食いしばって全ての表情筋に力が入る。目は開けられず、呼吸は一瞬で荒れて口は酸素を求めて全開になり、全身が震えた。そこからさらに団扇で送られてくる熱波の嵐。

「ウオオォォォオオッォオオォオォオオオ!!!!!」

 このあたりから、僕の記憶は曖昧になっていった。”苦悶の表情”とは今の僕のような顔のことを指すのだろう。過去最高レベル……いや間違いなく過去最高温度の熱風に、これまでとは比にならないほどの命の危険を感じた。まさに極限状態そのもの。眼球を守るために僕の目は限界まで閉じられ、折れそうになるほど歯を食いしばった。

ーー空気が熱すぎて息を吸うことができない……。肺が焼き尽くされそうになる。タオルで口を押さえたのは初めてだ。酸素はどこにあるんだ。息ができない。もうダメだ、これ以上ここにいることはできない。助けてくれ……!!

 気付いた時には、僕は水風呂の中にいた。もうなにも考えられない。ここまで灼熱のアウフグースは初めてだった。以前に伺った新小岩のレインボーでも、もしもあの116℃のサウナ室でアウフグースを受けたらこのくらい悶え苦しんだのだろうか。想像しただけで震えた。

 言わずもがな、その後の内気浴で僕は完全に宇宙と一体になり、昇天していた。意識は朦朧として、思考はシャットダウンされ、焼き尽くされた肺に冷たい空気が癒しを与える。生きていることを実感した。

画像12

 結局その後、再び20時のアウフグースを受けた僕は、心地の良い疲労感と達成感で満たされたまま、20時半ごろにチェックアウトを済ませた。

 さまざまなサウナを経験すればするほど、それまでの常識が覆されていく。あの時だけは、間違いなく宇宙の中心はここにあった。

(written by ナオト:@bocci_naoto)

YouTube「ボッチトーキョー」
https://www.youtube.com/channel/UCOXI5aYTX7BiSlTt3Z9Y0aQ


①僕たちは自費でサウナに伺います ②それでお店の売上が増えます ③noteを通して心を込めてお店を紹介します ④noteを読んだ方がお店に足を運ぶようになります ⑤お店はもっと経済的に潤うようになります ⑥お店のサービスが充実します ⑦お客さんがもっと快適にサウナに通えます