それぞれの仕事【ドーミーイン上野・御徒町@上野駅/御徒町駅】
僕の生活圏は山手線でいうと左下のあたり、20〜30代の働き盛りの方々が多そうなエリアである。
フリーランスとして生計を立てている僕を含め、現代は働き方が多様化したように思う。僕はパソコン1台とインターネット環境があれば仕事ができてしまう職業に就いているので基本的に自宅か近所のカフェに生息しているが、社会情勢に大きな変化が起きた2020年は、仕事の多様化がさらに加速したのではないだろうか。
さて、今日は10月31日(土)。世間的にはハロウィンである。
”Trick or Treat”よろしく「Trick or Sauna」と大声で叫びたくなる衝動を抑えて、「おいおいナオト、今日はちゃんとサウナの予定を組んでいるじゃないか」と自分を落ち着かせる。
そう、今日はすでに決まっていたのだ。どこのサウナに何時に行くのかを。というのも、今回のサウナは日帰りではなく宿泊で予約していたためだ。
そのサウナこそ、サウナーの諸先輩方の間で評価の高い「ドーミーイン」である。
ドーミーインは全国90店舗、韓国にも1店舗展開しており(※11月8日時点)、一般人だけでなく僕が尊敬しているロバート秋山さんからも熱い支持を得ている、安心と信頼のホテルチェーンだ。
今回はその中から「ドーミーイン上野・御徒町」を選ばせていただいた。たまたま翌日に人と会う予定があり、その目的地へのアクセスが良い店舗を探したのだった。
「Go To トラベル」が適用になるため一泊3,000円台でサウナに入り放題になるだけでなく、地域共通クーポン1,000円分まで手に入れられるとなると、悩む余地なんてなかった。
上野に着いたのは14時過ぎのこと。過去に2〜3度ほど訪れている「肉の大山」でメンチカツなどを嗜み腹ごしらえを済ませると、そこから歩いて5分ほどで「ドーミーイン上野・御徒町」に到着してしまった。土地勘があまりなかったので、まさかこんなに近いとは思っていなかった。
15時すぎにチェックインを済ませて、さっそく部屋へ向かう。案内されたのは11階だった。初めてのドーミーイン、調子に乗ってセミダブルの部屋を取ってしまったが、コンパクトながらも過不足のない仕様だった。
お風呂場には湯船は無くシャワーのみ。ただ、結局このようなホテルを利用させてもらっても基本的には大浴場しか使わないから、ここでの感想は「ちょうど良い」に尽きる。ドーミーインさん、良い仕事してますよ本当に。
館内着に着替えて、さっそく最上階に向かう。エレベーター内のスキャナーにカードキーをかざして、12階「大浴場 徒士の湯(かちのゆ)」のボタンを押した。
エレベーターを降りると、廊下には「お一人様一本までよ〜」という張り紙が書かれた冷凍庫が設置されていて、中を覗くとアイスが保存されていた。ドーミーインは、このような無料サービスが充実している点が特徴なのだ。ドーミーインさん、本当に良い仕事してますって。
アイスはお風呂上がりにいただくことにして、浴場へと向かった。ドアの入り口のスキャナーにカードキーをかざして中へ進む。脱衣所に入ると先客が数人確認できたが、そこまで混雑している様子ではない。むしろ空いていた。
服を脱ぎ、浴室へのドアを開ける。部屋同様にコンパクトな造りだったが、ここでの感想も「ちょいど良い」である。大人の男性8人ほどが入れる内湯と2人ほどが入れる露天風呂、1人サイズの水風呂が視界に入った。
まずは身を清め、内湯に入ってみる。
「なんだ、この肌触りは……」
(ドーミーイン上野・御徒町 公式サイト: https://www.hotespa.net/hotels/ueno/spa/ )
温泉ではないけれど、なんだかトロッとした、やわらかい手触りだった。どうやら特殊な装置で鉱物を取り除いた「超軟水」とのこと。なかなか良い。しかも、内湯とはいえ隣の大きな窓が全開になっているため、構造的には屋根付きの露天風呂と言っても間違いではない。外気が心地よい。
さらに、たまたまこの日は「果実湯(レモン)」というイベントが行われており、大量のレモンが湯船に浮かんでいて、視覚的・嗅覚的にも気分が上がった。
程よく体を温めることができた僕は、さっそくサウナへと向かった。ドアを開けてみる。
「ここもコンパクトやがな」
なぜ方言混じりになったのかは分からないが、サウナの中もコンパクトだった。二段構成で、横に4人が並んで座ることができる幅があったものの、奥行きはかなり狭くなっていて上下に1人ずつ腰をかけることは不可能に近かった。一段目なんて、二段目の人の足置き場くらいの奥行きだ。
要するに、最大で8人が入れるかと思いきや、現実的に考えた場合のキャパは4人だった。逆に考えると、そもそも4人が最大収容人数で、その一人一人が一段目と二段目を自由に行き来できる仕様だと捉えることもできる。いや、むしろそのような気がしてきた。
(ドーミーイン上野・御徒町 公式サイト: https://www.hotespa.net/hotels/ueno/spa/ )
中には先客が1人いたので、距離を置いた位置の二段目に腰をかけた。温度計を見てみると100℃ちょうどを指している。湿度は低く、カラカラ系。今の時代にこのような表現が適していないことは承知の上だが、あえて分かりやすく表現するなら「男のサウナ」といった印象だった。正面には音ありのテレビがあり、エンタメを楽しみながら蒸されることができる。
まだ昼過ぎの時間帯でもあり、この後に少し仕事を済ませる予定もあったので、7分程度が経過してほどほどに蒸されたタイミングでサ室を出た。水風呂はサウナのすぐ隣にあり、先ほども触れたように完全に一人用のサイズだった。頭から汗を流して、いざ突入。
「ここもちょうど良いんかい!!」
(ドーミーイン上野・御徒町 公式サイト: https://www.hotespa.net/hotels/ueno/spa/ )
思わず心の中でツッコんだ。温度を確認すると19℃前後。個人的にちょうど良過ぎた。
水風呂からは脱衣所の掛け時計を見ることができたため、1分ほど経過したことを確認し、心臓の鼓動を感じたタイミングで徒歩3秒の距離にある露天スペースに向かう。
(ドーミーイン上野・御徒町 公式サイト: https://www.hotespa.net/hotels/ueno/spa/ )
一脚だけ用意されている”ととのい椅子”を横目に露天風呂の中へとイン。都会のビルの最上階、12階の外気を受けながら入る露天風呂は「気持ち良い」以外の何物でもなかった。水風呂で圧迫されていた血管が開放され、全身に勢いよく巡り始める血流を感じた。頭の中がボーッとしてきて、もはや己の欲望のままに脱力していくしかなかった。
1〜2分ほどの入浴を経て立ち上がり、すぐ隣に置かれていた”ととのい椅子”へと腰をかけてみる。
「これはちょうど良くないよ……良すぎるよ!!」
心の中で叫んだ。秋から冬へと移ろう過程の、軽いと思いきや重みもある複雑な風が、僕の肌をかすめていく。火照った体に癒しの息吹が触れる。そっと目を閉じて、全身で受け止めた。この時ほど「時よ止まれ」と思ったことは無いかもしれない。
僕は軽く1セットを終えて、先ほどのアイスを片手に部屋に戻り、仕事を少し進めてから夜の街へと繰り出した。
学生時代に先輩に連れられて一度だけ行ったことがある「牛の力」でバターと温玉を乗せた牛丼(税込800円)を頬張り、エネルギーを補給してホテルに戻った。
部屋で仕事をしたりテレビを観たりしながら過ごし、楽しみにしていた「夜鳴きそば」を求めて2階のレストランへと移動した。「夜鳴きそば」はドーミーインの名物の一つらしく、上野・御徒町店の場合は21時15分〜23時00分の間に一人一杯無料でいただくことができる。
しかも、レストランの中にある冷蔵庫から「ご自由にお持ちください」スタイルで発泡酒やレモンサワーなどのアルコール類もしくはアップルジュースやオレンジジュースなどのソフトドリンク類を1本無料で受け取ることもできた。スタッフの中に葛城ミサトさんが紛れ込んでいて、いつ「サービスサービスぅ」と言ってきてもおかしくないほどのサービス精神。ドーミーインさん、良い仕事しすぎです。
「夜鳴きそば」は、カウンターで注文をしてから数分で出来上がった。Twitterで何度も見かけた名物と、いよいよご対麺である。まずはスープを一口。
「うまいっ!!!」
「鬼滅の刃」 無限列車編の煉獄杏寿郎よろしく、シンプルなラーメンにはシンプルな感想が口をついて出てきた。あっさりの醤油スープに、つるシコの細麺がよく合う。海苔のアクセントも良い。新小岩のレインボーでいただいた「らージョ」とボリュームも味もかなり似ていて、正直なところ「これ、丼じゃなくてジョッキに入れたら『らージョ』の完成だな」などとも考えていた。
「夜鳴きそば」を食べ終え、後ろを振り返るとコーヒーが無料で飲めることも分かった。ドーミーインさん、良い仕事しすぎですよ本当に。
部屋に戻り、テレビを見ながら胃袋を落ち着かせて、いよいよサウナの本番に向けて心の準備を始める。時刻は23時半。お風呂自体は24時間入れるものの、サウナは午前1〜5時までは入ることができないようなので、頃合いを見計らって再び12階に移動した。
浴場に到着すると、さすがにお昼過ぎの時間帯よりも若干混んでいるようで、サウナ室に入ると先客が3人いた。テレビ画面の中ではセクシーな姿のお姉さんがマジックを披露している。「こういう仕事もあるんだな……」などと感心しながらも、全裸の男性4人が並んで豊満なボディのマジシャンを眺めるサウナ室の中には、今までに感じたことが無いような、なんとも独特な空気が漂っていた。
(MANTANWEB:https://mantan-web.jp/article/20201031dog00m200010000c.html )
水風呂は1人しか入ることができないので、他のお客さんの状況を見ながらサウナ室を出た。1セット目よりも長く蒸されたためか、水風呂に浸かってじっくりと血管を収縮させると、身体が明らかに”ととのい”に向かっていることが分かった。
「今しかない」
僕は露天スペースへと飛び出し、湯船に全身を沈めた。拡張した血管の中を一気に血液が流れていく。ゆっくりと深呼吸。夜になって冷えた夜風が肺に流れ込む。”温”と”冷”の狭間で、意識が徐々に遠のいていく。
ゆっくりと立ち上がり、そのまま”ととのい椅子”へ。全身で夜風を浴びると、なんとなく冬のにおいが感じられた。混雑も徐々に解消されていき、周囲の物音も聞こえなくなってきた。そっと目を閉じ、深く息を吸い込むと、思考が少しずつ停止していった。そのまま大きく息を吐き出す。
「ふぁ〜〜〜……」
なんという解放感。全身の力が抜けていく。自然とまぶたが重くなる。日頃の抑圧なんてすっかりどこかに消え去ってしまった。心が満たされていく。
僕はすっかり、ドーミーインの虜になっていた。
身体を落ち着かせた僕は、本日の3セット目に入ろうと、”ととのい椅子”から立ち上がった。
「えっ、まさかアレは……!!」
そう、それまであまり柵の外を気にしていなかったのだが、露天スペースで立ち上がると、なんと目の前には綺麗な電飾に彩られたスカイツリーがそびえ立っていたのである。
ニクい、ニク過ぎるぞドーミーイン。なんて良い仕事をしているんだ。僕は思わず、両手を腰に当てて全裸でスカイツリーと向かい合った。
「どうだい、おれのナオトタワーも立派だろう?」
スカイツリーは、僕の心の問いかけには何も答えてこなかった。冷たい夜風が、僕の股間をそっとかすめた。
僕はそのあとに2セット、トータルで4セットを終えて、その日は就寝した。
翌朝は朝サウナのために5時台に起床し、部屋の窓から見える朝焼けにさまざまな思いを馳せた。6時過ぎに浴場へ向かうと、2〜3人ほどの先客が居たものの、すぐに貸し切り状態になった。
体を清めてサウナ室へと向かう。よくよく考えてみれば、人生初の朝サウナだった。
ドアを開けて二段目に腰をかけると、テレビ画面には昨夜と打って変わって暗いタイトルの番組が映し出されていた。
目撃!にっぽん 選「どん底からの再起~密着 バス会社の苦闘6か月~」
(NHK 番組表: http://nhk.jp/H74pT7yx )
コロナ禍における、観光バス会社の経営者に密着したドキュメンタリーだった。給与の高いベテラン社員たちの首を切らなければならなくなるほど逼迫する会社経営。とても生々しくて、ひとりぼっちのサウナ室の中でなんとも言えない気持ちになった。
フリーランスの僕自身も、ある意味で「株式会社ナオト」の代表である。いつ経営状態が悪化してもおかしくはない。100℃のサウナで蒸されながら肝を冷やした。
水風呂に沈み、そこでも黙々と仕事について考える。僕はこれから生きていけるのだろうか。1年後もこうやってサウナに通えるほどの余裕が持てているのだろうか。結婚しているわけでもないし、どのように死んで行くのだろうか。人生って、なんだろう。
将来について一抹の不安を覚え始めた時、気付けば体はすっかりと冷やされ震えを感じていた。
「こんなことを考えていても仕方ないじゃないか」
そう自分に言い聞かせながら露天スペースに出て、ふと顔を上げた。
「美し過ぎる……」
冷たい風が吹く中、澄んだ空気の向こう側から、朝靄を切り裂くように堂々とそびえ立つスカイツリーが僕の目に飛び込んできた。あまりの美しさに、露天風呂に入浴することすら忘れ、僕はその場に立ちすくんだ。なにも言葉は出てこなかったが、両手は無意識に腰に当てられていた。
どんなにツラいことがあろうと、誰がなんと言おうと、今日も新しい1日が始まろうとしているのだ。悩んでいたって仕方がないじゃないか。時間は有限であり、平等なのだから。
気持ちを入れ替えて、”ととのい椅子”に腰をかける。自然と呼吸が深くなっていった。朝の新鮮な空気を体内に取り入れ、ほっと一息ついた時、僕の表情は自然と笑顔になっていた。
(written by ナオト:@bocci_naoto)
YouTube「ボッチトーキョー」
https://www.youtube.com/channel/UCOXI5aYTX7BiSlTt3Z9Y0aQ
①僕たちは自費でサウナに伺います ②それでお店の売上が増えます ③noteを通して心を込めてお店を紹介します ④noteを読んだ方がお店に足を運ぶようになります ⑤お店はもっと経済的に潤うようになります ⑥お店のサービスが充実します ⑦お客さんがもっと快適にサウナに通えます