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【いつから私は、人が怖くなったのだろうか】李白の漢詩で気づいた、私の心を解きほぐしたもの。

接客業を13年続けたら、心と身体が離れていった。

現在は退社していますが、
私は13年間接客業をしていました。
店舗を任されていたこともあります。

普通なら、会話は上達し続け、
自分のテンプレート内でしっかり会話できる
人間に成長したでしょう。
ですが私は、接客業を続けるほど
精神的に壊れていきました。

しかし仕事が ままならなくなる訳ではなく、
接客は完璧にこなすことができます。
身体が心に反して勝手に動く感覚でしょうか。

そして仕事を終えて家に帰ると、
玄関に座り込んで一歩も動けなくなる。
そんな状態でした。

この事は、私が仕事を辞める一因になります。
私は接客する毎日からは離れましたが、
未だ克服できていません。
知らない人に話しかけられると
血が抜かれていくように頭が真っ青になります。

人との会話が怖くなってしまった私。
今回紹介する漢詩は、人と会うことの楽しさを
思い出すような内容でした。

李白の
終南山を下り、斛斯こくし山人の宿にぎりて置酒ちしゅ
という詩です。

日本語訳と、私なりの解釈を載せていますので
よければこのあともお付き合いください。




李白:下终南山过斛斯山人宿置酒Xià zhōng nán shān guò hú sī shān rén sù zhì jiǔ

下终南山过斛斯山人宿置酒
李白
暮从碧山下,山月随人归。
却顾所来径,苍苍横翠微。
相携及田家,童稚开荆扉。
绿竹入幽径,青萝拂行衣。
欢言得所憩,美酒聊共挥。
长歌吟松风,曲尽河星稀。
我醉君复乐,陶然共忘机。

【書き下し文】
終南山を下り、斛斯こくし山人の宿にぎりて置酒ちしゅ

暮れに碧山り下れば
山月 人にって帰る
来たりし所のこみち卻顧かえりみれば
蒼蒼そうそうとして翠微すいび横たわる
相携えて田家でんかに及べば
童稚どうち 荊扉けいひを開く
緑竹りょくちく 幽径ゆうけい
青蘿せいら 行衣こういを払う
歓言かんげん 憩う所を得て
美酒 いささか共にふる
長歌 松風しょうふうに吟じ
曲 尽きて 河星稀かせいまれなり
我れ酔い 君 また楽しみ
陶然とうぜんとして共にを忘る


【日本語訳】

日暮れに山を下っていくと
山の月は人を追ってくるようだ

今来た道をふり返ると
もやがいちめん山腹にかかっている

連れ立って友の田舎住まいにゆきつくと
童子こどもが柴の戸を開けてくれる

緑の竹が細いこみちをはさみ
青いつたが通る人の袖を払う

うれしくも心安らぐ所へきて
しばらく美酒を汲みかわし

松風の音に合わせてたからかに歌う
歌尽きる頃は 天の河の光もまばら

私は酔い 君も楽しみ
陶然として世間のことは忘れてしまった


【解説】

李白が日暮れに長安の南にある、
「終南山」を下っている場面から始まります。
途中で斛斯山人に会い、
共に山人の住まいに立ち寄り、酒を飲み、
楽しみ尽くしたときの詩。
斛斯は北方の人の姓で、山人は隠者の意味です。

月は自分を追いかけてくると思うほど近く、
山腹のもやは蒼蒼として美しい。
自然に見惚れていると山人と出会い、
使いの子供が戸を開けてくれるのも
微笑ましい光景です。

句末にある「陶然共忘机」の
陶然」は酔い心地、転じて
うっとりとして気持ちの良い様子を表します。
」は機の簡体字で、この詩では
世俗的なかけひき、からくりのことです。

世間のことを忘れてしまうほど
誰かと楽しい時間を過ごせることは幸せですね。
李白が心から楽しむ様子は、
仕事への焦りや、自粛が習慣になったことで
私が失ったものでした。




私の心を解きほぐしたのは、子どもの笑顔でした。

私がバスに乗っていたときのお話です。
信号待ちで止まった隣りには、
幼稚園の送迎バスがとまりました。
お互いバス同士なので、目線の高さが合います。

路線バスに乗る私たちと、
目線が合った園児たちは
どんな行動をしたと思いますか?

園児たちは
路線バスに乗っている私たちに向かって、
笑顔で手を振ったのです。
私は思わず顔がほころび、手を振り返しました。
そうすると園児たちはさらに盛り上がります。
その園児たちの中には、手を振ることを
恥ずかしそうにしている子がいました。

そんな、恥ずかしそうにしていた子も、
私が「手を振り返してくれる人だ」とわかると
笑顔で手を振りはじめます。

もしかしたら、人が怖いと思うのは
私がそう思い込んでいるからなのでしょうか?
大切なのは自分から心を開いて、一歩踏み出すこと。

彼ら彼女らは、身体は小さくても
勇気をだして、
毎日しっかりと確実に前に進んでいる。
私だって、がんばれるはず。

李白が詩中に
童子こどもが柴の戸を開けてくれる「童稚开荆扉
を加えたのは、
おそらく子どもの笑顔が印象的だったか、
小さい身体で使いとしての仕事を
しっかりこなす姿に心が動かされたのでしょう。

李白の詩と、私の経験が少しだけ重なって
ずっと閉ざしていた心が
解けていく感覚を覚えたのでした。


あなたは人が怖くなったことはありますか?
それは どのように克服しましたか?



参考書籍
中华书局经典教育研究中心:唐诗三百首诵读本(插图版) (Chinese Edition)


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漢詩に興味を持ってくださった方は
ぜひこちらも覗いてみてください。



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